指先で伝えたい9 




                十五


「とにかく、お前は戻れ、こんなとこで何さぼってんだ。一年はみんな、明日の準備してるんだぞ」
 尚哉の声は、明らかに怒っている。
 真白は無言のまま、その尚哉の背中越しに、「はい」と頷く澪の影を見つめていた。
 その影がわずかに動く、けれど、そのままの姿勢で、澪はまだ歩き出そうとしない。
「何やってんだ、とっとと行け!」
 その剣幕の激しさに、真白の方が、驚いて肩を震わせていた。
 もしかして、尚哉は、何か誤解しているのではないだろうか。こんな時間に、倉庫に二人きりでいたことに関して。
 わずかに躊躇して、それでも、澪がきびすを返して、校庭の方に消えていく。ようやく、尚哉が肩を落とすようにして、緊張を解くのが判った。
「……私、金槌とりにきて」
「見れば判るよ」
「……たまたま、片瀬君が倉庫にいたから」
「…………」
 尚哉の横顔は、何かを考えるように――眉間に縦皺を刻んでいる。
 真白は、その表情を不信に思いながらも、とりなすように、その固まった背を叩いた。
「尚こそ、どうしたのよ。吃驚したよ、急に来るから」
 そう言うと、ようやく尚哉は、我に帰ったような顔を上げた。
「部室に、忘れ物………つか、お前が心配だったから」
「私……?」
 七生実が、尚哉に言ってくれたのだろうか。
 あの時、七生実と一緒に、何も言わずに消えたから、それで追いかけてきてくれたのかもしれないけど。
 見上げると、尚哉は少し戸惑った目になる。
「何だよ」
「……ううん」
 と、真白もまた、戸惑って目をそらした。
 そして、改めて思っていた。澪がいなくなって、初めて自分の感情を、客観的に理解していた。 
―――私、尚哉とつきあってんだ。
 尚哉と――まがりなりにも、こう言う関係を持ったまま、今は、澪のことで傷ついている。それって、多分、すごく卑怯なことなんだ。
 なのに、澪を責めるような態度を取ってしまって。
 私って……真面目に最低なのかもしれない……。
「……部室……電気、ついてるな」
 階段の手前で足を止め、尚哉が囁く。
 電気の点けっぱなしの部室。多分澪は、もう一度部室に戻るつもりだったのだろう。いや、それとも、誰かまだ、部室に残っているのだろうか。
「……忘れ物って、何……」
 尚哉の背について階段を上がりながら、真白は聞いた。
「……ま、色々」
「…………」
 少しだけ、嫌な予感がした。が、ここで引き返すのも足を止めるのも不自然な気がしたし、何より今は、尚哉への罪悪感の方が勝っていた。
「……電気ついてるから、片瀬君、また、部室に戻ってくるかもしれないね」
 牽制するつもりもあって、やんわりと言ってみた。
 薄く開いた扉の手前。
 尚哉は、そこで足を止めた。
「………真白」
「何……?」
 振り返った尚哉に、獰猛に腕をつかまれた。それは余りに突然で、真白は声さえたてられなかった。
 腰を抱かれ、引き寄せられるように、扉の内側に移動させられる。肩を抱かれて壁におしつけられ、背中が、冷たい壁に当たる。尚哉が、両手を拘束したまま、唇を押し付けてくる。 
「……尚、場所……考えて」
 恐ろしかったが、拒めば、さらに尚哉が感情を昂ぶらせるような、そんな不安の方が強かった。
 明らかに尚哉は、誤解して怒っている。ここで激しく拒めば、ますます疑いが強められてしまう。
「……真白……」
 簡単なことだ、真白は自分に言い聞かせた。少しの間、我慢していれば――。
 腰に腕が回され、尚哉が身体の向きを変える。そして、後ろ手に扉を閉める。忙しなく、壁際の電気を消す。
 暗闇に取り残されて、初めて真白は、まさか、と思った。
「……やだ……尚」
「大丈夫、……誰も来ない」
 畳敷きの床に、押し倒される。
「や……いやっ、尚っ」
 尚哉の腕には、もう一片の余裕もない。
「なんでだよ」
「だって、やだ……ここじゃ、やだ」
 首を振って、必死で拒否する。
 尚哉の脚が、割り込んでくる。
「いや、いやっ、尚……お願い」
「大丈夫……真白」
「大丈夫って、何言ってるの、おかしいよ、片瀬君が戻ってくるかもしれないんだよ?」
「……大丈夫だから」
「…………?」
「あいつは来ないよ、つか、見ても言いやしないから、心配すんな」
「………どういうこと……」
「あいつはな、お前をからかっただけなんだよ」
「…………」
「……真白は何も知らないだろうけど、あの男は、……サイテーのヤローだから」
 尚哉の目は、初めて見るような憎悪の色で揺れている。
 自分の知らないところで、何かが起きていることだけは判った。
 不安で跳ね起きようとしても、尚哉がそれを許さない。
「尚っ……、やめてっ」
「真白……頼むよ、させてくれよ」
「やだ、……やだ」
「俺、限界なんだ……わかるだろ?」
 首を振る。必死で振る。ふいに――自分に被さっている男から、滲み出るような怒りを感じた。
「うるせぇな、片瀬はよくて、俺は駄目ってことなのかよ!」
 真白は凍りついていた。
 それは――どういう意味なのだろう。
「……知らないとでも思ってるのかよ、俺が」
「…………」
「お前、片瀬とやりたくてここに来たんだろ、あいにくだったな、相手が俺でさ」
「…………」
「お前は、からかわれただけなんだよ」
 尚哉は、先ほどと同じセリフを囁いた。
―――からかわれた……?
 その言葉と、男にのしかかられていることの息苦しさに、真白は眉をひそめていた。
「片瀬はさ、お前を誘惑するように頼まれたんだ。……お前、莫迦みたいに初心だから、ちょっとくらい遊ばれた方がいいって」
―――何……言ってるの……?
 頼まれた?
「……くそっ、俺が莫迦だった」
 何の話?――どういうこと?
「あんな奴に、先に遊ばれるなんて」
 意味が判らない。
 抵抗すると、ぐっと喉元を押さえつけられた。呼吸も止まり、身体の力も抜けていく。
「……な、お……」
「……されたんだろ?」
 ただ、無言で首を振る。目じりに涙が滲んだ。
 どうしようもなく、虚しい涙だった。
「片瀬にされたんだろ?同じことしてやるっつってんだよ!」
「………ち、がう…」
 怖くて――今はもう、それだけしかない。
 尚哉の膝が、脚の間に割って入る。
 真白は両手で顔を覆い、それでもたまらず眼を閉じた。
「やめて……尚……、やだっ、こんなの……やだっ」
「お前、変ったよ、これも片瀬のせいなのか、……妙に女臭くなった気がするよ」
 尚哉の唇を、顔を逸らして拒否しながら、頭の中で、それでも真白は、全く別のことを考えてしまっていた。
 ようやく真白は理解した。
 あの時の……澪の言葉の意味。
 不可解だった態度の意味が。
「……真白……」
 尚哉の声が、少しだけ優しくなる。
 その時には、真白はもう、抵抗するのをやめていた。


               十六


「すごいなぁ、七生実は、着付けまでできちゃうんだ?」
 真白が、感嘆した声でそう言うと、
「ふふ、ママの着付け、いっつも手伝わされてるからさ」
 微かな笑い声と共に、ぐっと背中で帯が捻り上げられる。
 急激にウエストが締め付けられて、一時、呼吸が止まるかと思っていた。
「きつくない?」
 その帯を、多分器用に結びながら、七生実が言う。
「……っついよ、何だか、恨みでもこめられてるみたい」
「ばれたか」
 そして、ばっと手を離し、七生実は、真白の隣に立った。
 家庭科準備室。大きな鏡が、そこに立つ二人を映し出している。
 黄色の絣の着物を着た真白と、そして、制服にエプロン姿の七生実。
「演劇部からの借り物にしては、可愛いよね」
 真白は、笑顔でそう言って、鏡越しの七生実を見る。すると、二年前からの親友は、少し不思議そうな目になった。
 一瞬だけ。そしてすぐに普段通りの七生実になる。そして、大きな口をすうっと開けて、セクシャルな笑みを浮かべた。
「……片瀬、マジでたこ焼きの着ぐるみ着てんだってね」
「大笑い、それがさ、元ファンの子が情報聞いて駆けつけたみたいで、今、門のとこ、ちょっとした騒ぎになってる」
「すごいねー、マジで元アイドルなんだ」
 笑いながら、その――アーモンド型の形良い目が、さぐるように自分を見ていることを、真白は静かな気持ちで感じていた。
「そこ……どうしたの?」
 七生実の眼が、自分の両手の甲に注がれている。そこには、何枚ものカットパンが貼ってある。
「……昨日、倉庫でこけちゃって……金槌、随分奥にしまってあったから」
 笑顔のままで、真白は言った。
「女子部は利用しない倉庫なのに、七生実、よく場所なんて知ってたね」
「……前、誰かから聞いたことあったから」
「ふぅん」
 それだけ言って、真白は、鏡に映る、自分の顔に手で触れた。
「…………」
 昨日の自分とは、もう、違ってしまった自分。
 胸に込み上げるものを振り切り、そして笑顔で顔を上げる。
「ね、リップ貸してくれる?」
「……リップ……?いいけど、色、ついてるよ」
「知ってる、七生実によく似合う、オレンジ色だよね」
「……真白には似合わないよ」
 そう言いながらも、七生実はポケットの中から小さなポーチを取り出してくれる。唇が乾燥気味で、夏でもリップを手放さない七生実が、いつも同じメーカーの、同じものをつけていることを、真白は、一年の時からよく知っていた。
「ありがと、……やっぱり、似合わないね、私には」
「真白は、もっと可愛い色が似合うよ」
「じゃ、そろそろ時間だから」
 ポーチのチャックを閉めて、投げ返す。
 心の中では、とっくに決別した女だった。
「……尚は、今日休み?」
 扉に手を掛けると、躊躇うような声だけが追いすがってくる。
「風邪だって、莫迦だね、夏なのに」
 真白は、振り返らずに応えてから、片手を上げた。
「じゃ、時間あったら遊びにきて、私、午前いっぱい売り子してるから」
「オッケー」
 そう応える七生実の声が、初めて不安そうに揺れていた。
 

                 十七


「……こんちは」
 女は、真白を認めると、そう言って少しだけ首を動かした。
 お茶を運ぶ前から、その女の視線が自分に注がれていることに気づいていた真白は、
「どうも……」
 低い声でそう答え、氷の入った冷茶を、女が一人で座るベンチの空きスペースに置いてやる。
 木陰の下。校庭の賑わいからは少し離れた場所である。
 子供たちや家族づれが溢れた校庭からは、焼きそばやお好み焼きの、ソースの匂いが、風に乗って流れてきていた。
「……澪の、彼女ってあんた?」
 昨夜聞いた声とは、別人のように低い、大人の女性の声だった。
 白っぽい茶髪。澪の言葉を信じるなら、失格――ということになるのだろう。グリーンのノースリーブのワンピース。爪は驚くほど長く、きらきらとデコレートされている。
「……多分、私じゃないと思うけど」
 真白は呟き、女の隣に腰掛けた。
 本当は、休んでいる暇などないほど、忙しい。校庭の隅に一際大きなたて看板が翻っている。その下で、炎天下とガスの焔で汗みずくになりながら、多分、澪はせっせとたこ焼きを焼いている。多分――きれいな手に、軍手でも嵌めて。
 その校庭に視線だけ向けたまま、真白は言った。
「煙草吸ったの、あなたじゃないでしょ」
「…………」
 ちょっと、意表を突かれた目で女は肩をすくめる。そして、真っ赤な唇をゆがめて破顔した。
「だから、嘘は苦手って言ったんだけどな」
「澪に頼まれたの?」
「……あいつ、莫迦だからね」
 長い爪に覆われた指で、女は冷茶の入った紙カップを取り上げた。
「無駄に責任感強いっつーか……一回寝た女には、妙な責任感じちゃってんの。……すっごく真面目な子だよ、想像できないと思うけど」
「…………」
 それだけで、全ての真相が――真白には判ったような気がしていた。
 最後まで、どこかで否定したかった事実。
 吸殻に滲んでいたオレンジの沁み。
 澪と――多分、七生実は。
 ふいに女は嘆息した。
「あんたさ、りょうのこと説得してくれないかな」
 どこか、疲れたような声だった。
「今日、東京戻るんだ、アタシ。……本当は、りょうも連れて帰るつもりだった。変な意味じゃないよ、言っとくけど」
 一気に飲み干した紙カップを、女は所在なげにいじっている。
「りょうさ……結構いいポジションにいたんだよね。もうちょっとでデビューできてたはずだった。そんな時……事務所の後輩が、煙草吸ってさ」
「…………」
「吸殻、りょうのロッカーに入ってて、……莫迦だよねぇ、否定すればいいのにさ、認めて、それで事務所やめちゃったの」
 黙ったまま、真白はただ、眉をひそめていた。
 その時の澪の気持ちが、判るようで――判らないような気がした。
「……あいつ……ただ、逃げただけだと思うよ」
 真白はそれだけ呟いた。
 きっかけ。確かにそれは何かのきったけだったのだろう。父親の事業の失敗も、後輩の――裏切りも。
 真白自身がそうだったから。
 才能のある後輩と競って敗れるみじめさを味わうくらいなら、ここで、辞めた方がマシだと思ったから。
「かもね、……弱い奴だから」
 女はあっさりとそれを認め、長い髪に指を絡めた。
「多分今年か来年、……J&Mから、デビューするグループが出んだ。今年、ほら、ワールドカップバレーあるでしょ。こう言う時ね、デビュー曲イメージソングにして、テレビ曲とコラボ組んで、代々的にデビューさせんのが、今までの事務所のやり方」
「……それで?」
「……りょう、残ってれば、候補の一人だったと思う。ううん、今戻れば、ぎりきり候補で残ると思う」
「…………」
「あの莫迦が、煙草なんて死んだって吸わない奴だって、事務所の社長も誰も知ってるからさ、……帰ってきたら、いいと思う」
 風に、少しだけ海の匂いが混じっていた。
「ここ……やなとこだね」
 立ち上がった女が、バックを抱えながらふいに呟いた。
「……田舎だから」
「そんなじゃないよ」
 顔をしかめて、女は笑った。化粧を落とせば、可愛い顔だちをしているのかもしれない、と真白は初めて思っていた。
「空気も、匂いも、町の人も……みんな嫌。全身で、よそ者を否定してるような気がする」
「…………」
「息詰まりそう……りょう、それでも、ここに馴染もうとしてるんだ。見てて哀しくなったって言っといて」
 もう、二度と来ないから。
 それだけ言って、女は綺麗な背を向けた。
 校庭で、誰かが呼ぶ声がする。
 真白は、盆を持って立ち上がった。


                 十八


「……片瀬君」
 扉を閉めながらそっと声を掛けると、片瀬澪は、少し驚いたように半身を起こした。
 窓を開け放した一階の教室。日影になっているせいか、さすがに屋外よりは涼しかった。
「……びっくりした……」
 机の上で、中途半端な姿勢のまま、澪は呟く。
 炎天下、ふざけた着ぐるみを着せられていたせいか、額には汗が滲み、いつも嫌なくらい計算された髪が、額に、顎に張り付いている。
 午後四時。
 少し早い時間に、男子バスケ部のたこ焼きは全て売切れてしまった。無論、着ぐるみから顔だけ出した元アイドルタレントのおかげである。
 他の一年が片付けをしている中、澪はさすがに、しばらく動けなかったようで、そのまま校舎の中に戻っていった。
 そして、ここ―― 一年の教室を借りた準備室で、机を並べた上に、仰向けに寝そべっていたらしい。
「すごい手際よかったから、吃驚した。実は、たこ焼き職人だったんじゃない?」
 歩み寄りながら、真白が明るくそういうと、澪は視線を逸らして、曖昧に笑んだ。
「ばれた?」
 朝から目さえ合わせられないでいて、今日、初めて交わした会話だった。
 真白は黙って、澪の隣、机の上に、同じように腰をかけた。
 少しの間、気まずいような、それでいて、不思議なほど心地よい沈黙があった。
「……大丈夫だった?昨日……あれから」
 澪の、掠れた声がした。
 視線を曖昧に泳がせたまま、澪は、自分の足元を見ているようだった。
 その痩せた肩先を見つめながら、今、澪が考えて――多分、苦しんでいる事が、真白には全部判るような気がした。
 窓から流れ込んでくる風が、少しだけ涼しくなり、盛夏の熱気をやわらげてくれた。やはり、風は、濃密な海の香りがした。
「……片瀬君が……呼んでくれたんでしょ、荒神原君を」
 うつむいたまま、真白は言った。
「…………」
「……相当恥ずかしい思いしたけど……尚、……色んなこと誤解して、昨日はおかしくなってたから……助かった」
「……そっか」
 息を吐く気配と共に、ほっとしたような声がした。
「……それで、唐渡君、来てないんだ」
「今日は家で謹慎してる……荒神原君、かなり激怒してたから」
「真面目な人だもんな」
 澪はようやく笑顔になった。
 真白も、同じように笑みを返す。
「……片瀬君の謹慎は解けたの?」
「……一応、七月いっばいまでって、そういうことだったから」
「……律儀だね……部外者の彼女のために、毎日、部活出て掃除してたなんて」
「……真白さん」
 何かを言いかける言葉を視線で塞ぐ。
 真白は、澪の――冷たい手に、自分の手を重ねていた。
 少しだけ、首の角度をずらして、澪が顔を傾けてくる。
 真白は眼を閉じ、そのまま、唇を重ねていた。
「……前、真白さん、言ったよね」
「…………何を……」
 胸が、ドキドキしている。机の上で、重なった指先が触れている、多分――そこから伝わっている。
「俺が好きになれるの、一人だけだって……それ、マジで意味が判ったから」
 黒い瞳。今は、自分しか映らない眼差し。
「……俺とつきあって……」
「…………」
「俺のもんになって、」
「…………」
「真白さんだけでいい」
 頬を抱かれ、額が合わさる。唇にかかる吐息が暖かかった。
「……信じられないよ」
「……じゃあ信じて」
「………マジ…?」
「マジ」
 もう一度、キスを交わし、三度目のキスを続けながら、自然に指を絡め、しっかりと互いに握り締めていた。
「……好き……?」
「……ん……?」
「俺のこと、好き……?」
 言葉の代わりに、握った指に力を入れる。
 長い、呼吸さえ苦しいほどのキスのあと、澪は、最初とは別人のような、無邪気な笑顔になっていた。
「デートしよっか」
「デート?」
「今夜、どっか行こう、二人でいよう」
「遅くなるよ、これの片付けとか終わったら、もう」
 澪のまとっている、ひらひらのマントを指で引っ張る。
「いいよ、早く真白さんと二人になりたい」
 ちゅっと、唇に軽くキスされる。
 くすぐったいほど、可愛らしい口づけだった。
「私……」
「えっ……」
 真下からじっと見上げる。
 顎を引いた澪の、ちょっとだけ戸惑う顔が可愛かった。
「……何?」
「……たこ焼きマンとキスしてるんだね」
 くすっと笑って真白は言った。







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