22
「資金もない、スタッフもない、時間もなければ、協力してくれる企業もない」
 いい差した唐沢直人が、あきれたように書類を投げた。
「送られた企画書を見た時も唖然としたが、本当に最悪の状況だな、これは」
「まぁね」
 憮然とする唐沢に、平然と答える真咲しずく。
「一体どこのバカが、こんなあり得ない計画を考えだしたんだ」
「あら?企画は常に夢絵巻、それを現実にするのが、優れたプロデューサーの仕事じゃない」
「…………」
 ぴくっと唐沢の額に青筋が浮かぶ。
 将は、一人頬杖をついたまま、そんなトップ二人の姿を見ていた。
 冗談社三階の仮設事務所。まだ事務所の正式名称すら決まっていないその場所で、今、真咲しずくと唐沢直人が、おそらく、トップ会談と呼んでもいいしろものをやらかしている。
 聡、雅之は、それぞれの仕事とスポンサー探し。イタジは憂也を連れて、水嶋社長に挨拶をしに出向いている。
 唐沢直人を新トップに仰いでの再出発。形はなんとかできたものの、まだ、色んな所にブレーキがかかったまま、走り出せない電車といった感じだ。
「……別に誉めているわけでも、自虐心から言っているわけでもないが」
 机の上に散乱した資料をまとめながら、唐沢が呟いた。
 夜の静寂、開けはなった窓から冷えた秋の風が入ってくる。
「俺などいなくても、よかったんじゃないのか」
「私がいるから?」
 あまりにストレートな図星だったのか、むっとした表情で唐沢が黙る。
 しずくは笑いながら、椅子を大きく軋ませた。
 J&M時代に使っていた豪奢な椅子とは雲泥の差の、錆び付いた事務用チェア。
「私じゃ無理なんだなー、夢絵巻は描けても、実行力がない」
「そんなことはないだろう」
「奇蹟のヒットのこと言ってんなら、それは、私が考えたシナリオじゃないもの」
 顔をあげた唐沢が眉をひそめる。
「では、誰だ」
「もう、この世にはいない人」
 将も、顔をあげている。
「生きていれば、最高のアーティスト、そして最高のプロデューサーだった人」
 首をかしげて笑ったしずくの顔は、夢でも見ているようにあどけなく見えた。
「……その人が生きていて、ちょっと狡猾で利口になったら、この程度のマジック、多分簡単に起こしてたと思う、私はそれを想像して真似ただけ」
 それは、もしかして。
 将が口を開くのを遮るように、しずくは立ち上がって、締めてあった窓をそっと閉じる。
「なんてね、ずるいね私も。自分がしでかしたこと、死んだ人のせいにしようとしてるんだから」
「……悪い仕事ではなかったはずだ」
「…………」
 それには答えず、しずくは微笑して振り返った。
「さて、問題は金欠よ」
「まぁ、そうだな」
 金がない。
 それが、一番の問題だし、真っ先にクリアしなければならない難題だった。
 唐沢直人の個人資産は全て、ストーム事件で被害をこうむったテレビ局、製作会社、スポンサー企業への賠償に当てられている。
 頼れるのは真咲しずくの個人財産だけのようだが、それも、今までの二人の会話を察するに、さほどあるわけではなさそうだった。
 不思議な気がした。
 全て噂だったのかもしれないが、真咲しずくには相当の資産があったはずだ。しかも、元々はJの筆頭株主。そして、世界的な富豪と、一時とはいえ結婚までしていた。
―――つか、一体何に使ったんだよ。
 この女が性格上、資産の出し惜しみをするとは思えない。仮にあったとしても、最初から頼る気もないし、出させる気は絶対になかった将だったが、そこだけは少し不思議な気がした。
「私の貯金っつってもたかが知れてるしね、当面は持っても、この先のことを考えるとなー」
「銀行の融資の取り付け、それから、年末のドームに関しては冠となるスポンサーを探すのが、第一だろう」
「そうね、ただそれは、多少の波風じゃびくともしない有名企業であることが必要よ」
「……柏葉」
 唐沢の視線が向けられる。
 問われたいことを察し、将は片手をあげていた。
「浅葱建設のことを考えておられるなら」
「いまさら下手な敬語など使わなくていい、端的に、自分の言葉で喋ってくれ」
 少し驚いたものの、将は即座にその意を介して頷いた。
「悠介んとこなら無理だと思う、最初に言っとくけど、あいつはもう、関わらせないで欲しい」
「本人はやる気まんまんだったけど」
 くすっと笑いながらしずく。
「悠介には……俺がいずれ、話をするから」
 あの馬鹿。
 留学まで取り消して、一体何をやってんだ。
 浅葱建設会長でもある父親との約束で、大学卒業後、ただちに就職するはずだった悠介には、海外留学という猶予期間が与えられた。
 父親が出した条件のひとつに、将と二度と会わないという決め事があったことを、将は、亜佐美からのメールで知っている。
「ひとつ、お願いがあるんだけど、いいかな」
「なんだ」
 少しためらってから、将は居ずまいを正して切り出した。
「今の俺たちにとって、ドームが一番大切だってのは判ってる。それを承知で、その上で、……それでも雅之や聡、憂也の仕事がなんとか繋がるよう、そこんとこ、配慮してもらえないかな」
 答えないまま、唐沢の横顔が眉を寄せた。
「具体的にはどういう意味?」
 しずく。
 将は、その顔を見ないままで続けた。
「年末のドームに立つのはストームだ。ストームはストーム、でもその構成員は、ぎりぎりまで公表しなくてもいいんじゃないかと思うんだ」
「君の名前を出すなってこと?」
「……そういう意味もあるけど、それだけじゃない」
「片瀬君のこと?」
 うつむいて唇を軽く噛んでから、将は顔をあげて唐沢を見た。
「……正直言えば、りょうのことも、確かにある」
 片瀬か。
 唐沢が呟く。
「りょうは多分戻らない。……それでも、俺の中ではりょうはストームの一員だ。今、ストームが四人だって、それだけは言ってほしくないんだ、絶対に」
「柏葉……気持ちは判るがな」
「それに、いきなり俺の名前だしたら、間違いなく聡や雅之の仕事は白紙になる。あいつらの仕事は11月にはけりがつく。来月くらいまでメンバーの公開を引っ張ったら、あいつらだけでもなんとかなると思うんだ」
 眉をしかめたままの唐沢が立ち上がる。
 かすかな溜息が、その唇から零れた。
「甘いな」
 怒りをにじませた目が、将を捕らえる。
「今更何を言ってるんだ、その程度の覚悟もなくて、何が年末の東京ドームだ」
「雅之や聡、憂也の仕事がダメになったら、それだけで俺らの負けだよ、唐沢さん」
 将もまた、強い眼差しで唐沢を見つめた。
「そんな失敗とダメージ引きずって、俺にはドームが成功するとは思えない、というより」
 というより、もう。
「もう、ドームへの戦いは始まってる、これだってその一部なんだ」
 唐沢が黙る。
 腕を組んだまま、椅子に座る。
「俺には、お前のいう方法がベストだとは思えない」
「無理言ってるのは判ってる。逆効果になるかもしれないってことも判ってます」
「最初に何もかもさらした方が、後が楽だと思わないか」
「後でも先でも同じことだと思うけどな」
 互いの譲らない眼差しがぶつかりあう。
「ま、いいんじゃないの、柏葉将の言うとおりで」
 あっさりと口をはさんだのは、しずくだった。
 かくっと、はりつめていた空気がふいに和む。
「なんでそんなに軽いんだ、お前は!」
「えー、だって深刻に考えたって仕方ないじゃん」
 けろりとしずくは唐沢をスル―。
「五人だったストームが四人になりましたってしょっぱなから寂しい現実公表してもね。戦略としては、メンバー公開をひっぱるのもありだと思うなー」
「読み間違えると、後から来るぞ」
 低い声で唐沢が呟く。
 後から来る。
 何が来るのか、聞くまでもなかった。
「ま、いいじゃない、もしかするとさ、何かのはずみで片瀬君が戻ってくるかもしれないし」
 しずくはさばさばというと、「じゃ、この話はこれで終わり」と言わんばかりに、机の上に書面を広げた。
 いや……りょうは、はずみで戻ってくるような軽い奴じゃねーし。ま、いっけど。
「それにさ、綺堂君の事務所の意向もあるじゃない」
 書面に目を落としながら、しずくは続けた。
「今、青磁君が交渉してくれてるけどさ、とにもかくにも憂也の名前は土壇場まで出すなの一点張り、向こうも必死ね、せっかく掴んだハリウッドスターの座が白紙にもどるかどうかの瀬戸際なんだから」
「…………」
 難しい顔で唐沢は黙る。
「俺にペテン師にでもなれというのか」
「あれ?芸能界はそもそもペテンでなりたってる商売じゃない?考えない考えない、結果よければすべてよしよ」
 むしろその結果が、最悪のものになるかもしれないぞ。
 唐沢の呟きが聞こえたかのかどうか、しずくは、もうそれには答えなかった。
「とにもかくにも資金よ資金、このままじゃみんなにお給料も払えない」
「ま……それはそうだが」
 唐沢も納得できないまま、なんとなくしずくのペースに乗せられている。
「どの程度回ってみた」
「都市銀も地銀もあらかた回ったけど、全部ダメ。ファンド系も門前払い、J&Mって、よっぽど銀行に嫌われてるのね」
「……だろうな」
 理由に関して思うことがあるのか、唐沢は気鬱そうではあったが、失望している風でもなかった。
「外資を俺が回ってみよう、ただし、このプランだと鼻で笑われるのがオチだろうが」
「嫌われてるのもあるけど、結局どこも、世論の動向を確かめたいのよ」
 しずくが脚を組み直した。骨の形がくっきりと判るほど細い足首。
「成瀬君と東條君を悩ませてるスポンサーもそう、綺堂君の映画のプロモーターも同じ、噂だけが先行してるストーム再結成が本当になった時、果たして世論がどんな反応をみせるか――、それを見極めてからじゃないと、うんともいいえとも言えないのよ」
「……世論、か」
 世論。
 姿も形も見えない敵。
 ふいに室内の温度が、肌に感じられる程度に下がった気がした。
「難しいな、それをどう、利用するかだ」
「なんにしろ、ある程度会社とコンサートが形になってからの方が、融資も受けやすいんじゃないかと思ったわ。初期費用はなんとかなるから、苦しいけど同時進行で進めていくしかないんじゃないかな」
「お前の試算では、初期投資額はいくらになる」
「ああ、これ、弾いてきたんだけど見てくれる?」
「…………お前……東大卒って嘘だろう」
 将は不思議な気持ちで、もう何年も一緒にいるような雰囲気をかもし出している二人を見つめた。
 犬猿の仲……J&Mでは、同席しているだけで、ブリザードが舞ってみえた二人なのに。
 しずくの前では、頑なな他人行儀を崩さなかった唐沢が、まるで九石ケイでもあしらうようなフランクさだ。
 というより、ケイがこの場にいたら、真面目に嫉妬するんじゃないだろうか。
 二人は子供の頃から一緒だった、兄妹のように同じ部屋で暮らしていた時代もあった――唐沢の父が話していた、そんな言葉が蘇る。
 もともとしずくと唐沢は、J&Mの低迷期、暗い時代を共有して生きてきた。本当は心の底の部分で同じものを求め、分かり合っていたのかもしれない。
 ただ、その手段を、どこかで掛け違えてしまっただけで。
「それにしても、当面、ここの家賃は安くしてもらわないとね」
「ただにしてもらおう、それは俺が交渉する」
「うーん、あの守銭奴みたいな事務員さんが飲むかしら」
「最悪、身体で払うから心配するな」
「……………………」
 将はただ、唖然としている。
 か、唐沢さんのキャラって……こんなだったっけ。
「金もないが、もっと深刻なのは時間が全くないということだ」
 が、唐沢は、普段の冷徹さを取り戻したように、陰鬱な声で呟いた。
「早急に信用と知名度をあげなければ、今のままでは人材も企業もよりつかない、俺が思うリミットは十月初旬だ、それまでには新会社の発足と年末のドーム公演を公表する必要がある。することも考えることも山ほどある、もっと大勢の助けがないと到底年末には間に合わない」
「知名度はともかく、信用については並大抵の方法じゃ無理でしょうね」
「やり方は色々ある、企業が興味を示す面も色々だ」
「じゃ、それまでに、三人の仕事の方、なんとかけりつけてもらわないとね」
 雅之、聡、憂也。
 ある意味、崖っぷちに立たされている三人の仕事とストーム再結成、それをどう折り合いをつけて乗り越えていくか。
 最初の壁だ。
 将は思う。敵は大衆――本当にその通りだ。
 簡単なようで、それはあまりにも高い壁。
「会社立ち上げまでに、色んな契約条件をクリアにしておく必要があるわね」
「潰していこう、ひとつずつあげてくれ」
 なんか……すげーな。
 テンポの速い二人の会話。阿吽の呼吸で、次々と問題を解決する手段が決められていく。将には、口を出す暇もない。
 多分、将がたどり着くより随分前に。
 真咲しずくは、病床の唐沢直人あてに、コンサート企画と新会社発足に向けてのオファーを送り続けていたのだろう。
「問題は、コンサートスタッフとスポンサーが集められるかどうかだな」
「東邦が必ず横槍を入れてくるわね、ただ、それを逆手に取る方法もあると思う」
「敵対企業をリストアップできるか」
「青磁君にもう頼んでるわよ」
 将は苦笑して立ち上がり、議論を交わしている二人から背を向けた。
 マジすげー、これ、もしかして、最強コンビじゃねぇのかな。
「下で、コーヒーでももらってくるよ」
 みんなでカンパでもして、コーヒーサーバー買わなきゃな。
 それだけ言って、将は室内を後にする。
「悪かったわね、守銭奴で」
 暗がりの中、じめっとした声がした。
 階段を下りようとしていた将は、ぎょっとして後ずさる。
「……く、九石さん?」
 まるで柳の下の幽霊のように、照明の切れた闇からにじみ出てきた巨体。
 いつからそこに立っていたのか、九石ケイは、陰鬱な目で、じっと将をやぶ睨みにした。
「新会社発足おめでとう」
「あ、ありがとう」
 つか、まだ正式には何も決まってないんだけど。
「ついでに、私の忠告も、綺麗に無視してくれてありがとう」
「ど……どうも……」
 な、なんだろう。このムード。超やりにくいっつーか、逆恨みされてるっつーか。
「別に、その、二人はそんないいムードでも」
「なんの話よ!!」
 禁句。
 将は慌てて口をつぐむ。
 が、エルボードロップの一発でもお見舞いされると思いきや、ケイは、不思議なほど静かな目で、壁に背を預けて視線を下げた。
「……もう、何いったって無駄なんでしょ」
「ま、……そうだね」
「情報収集なら、おたくの弁護士より、うちの守銭奴の方が確かだって言っといて」
「…………」
 将は、黙ってケイの顔を見る。
「うちは、Jのたいこ持ちだからね、死なばもろとも、こうなったら年末のドームまで、もうとことん付き合うわよ」
「………………」
 九石さん。
 言葉が出てこない将の肩を軽く叩き、ケイは、背を向けて階段を下りていく。
「つか、あんたはそこで何やってんのよ」
 が、数段降りたところで、ケイは眉を寄せて振り返った。
「あんたは腐っても看板タレントなんだから、こんなとこにいるんじゃなくて、他にすることあるんじゃないの」
「話、あってさ」
 少し黙ってから、将は言った。
「……話?」
「真咲さんと唐沢さんに、だけどやめた、どこで口挟んでいいかわかんないし」
「なんなのよ、もったいぶって」
「別にもったいぶってなんかねぇけど」
 将は苦笑して歩き出す。
「悪いけど、コーヒー、ちょっとわけてくんねぇかな」
「一杯五十円よ」
「……あっそ」
 そんな、たいした話でもねぇけど。
 たった一つ。
 事務所を正式に立ち上げる前に。
 どうしても、約束させておきたいことがあったから――



「以上だ」
 自席に座ったままの人の声は、最初から最後まで冷たかった。
「わかったら下がりなさい、私は忙しいのでね」
 日本が世界に誇るゲーム企業、ニンセンドーの社長、そして今は芸能事務所「ニンセンドープロダクション」の代表、御影亮。
 六本木の事務所。
 その日、社内には滅多に顔を出さない代表取締役の部屋に、雅之と、そして聡が呼び出された。
 用件は、ある程度覚悟し、そして予想したとおりのもの。
 うつむいたまま、眉を寄せる雅之。
 聡は、一礼しようとして、それでも顔をあげていた。
「それは、もう覆らない決定なんですか」
 一縷の望みは。
 この人が、かつて、これから自分たちの代表として立とうとしている、真咲しずくの夫だったということだ。
「決定だね」
 表情を殆ど変えずに、美貌の紳士は、静かな目で聡をみあげた。
 穏やかな、ゆえに取り付く島のない口調。
「製作会社やプロデューサーと話し合った結果だよ。成瀬君の舞台はスポンサー企業の降板により中止、東條君が主演する映画も、スポンサーの降板と、上映先が受け入れを拒否したことで……まぁ、実質的な中止だろう」
 あまりにも残酷な最後通告。
 黙る二人の前で、御影は静かに立ち上がった。
「申し訳ないが、当社としての、違約金の支払いは拒否したよ。君らがフリーの立場で契約し、そしてそれぞれの立場で違反したことだ。裁判になるかもしれないが、私としては譲る気はない」
「正式ではないんですよね」
 聡は、それでも言い募った。
 ここで。
 ここで、全ての希望を断ち切るわけにはいかない、絶対に。
「まだ話し合いで合意した段階ですから、正式決定までは、時間がありますよね」
「……あったとして、それでどうするつもりかね」
 冷めた声で、御影。
「君らがむやみに、スポンサー探しに奔走したせいで、業界では不穏な噂が飛び交っている。君らが、ストームとして再結成するという噂だ」
「それは、噂じゃありません」
 即座に聡は言っていた。
 会社間の話し合いが先だろうと思っていた。でも、今だろうと、そう思った。
「僕らはストームをもう一回やります。そうなれば、もうここにはいられないことも判っています」
「お世話になりました、迷惑をかけてすいませんでした」
 それまで黙っていた雅之も、覚悟を決めたように前に出る。
 御影は何も言わない。表情さえ変えず、ただ、どこか不思議そうな目で立っている。
 多分、何をバカなことを言っているんだ、程度にしか思われていないのだろう。
「僕らの仕事のことは」
 聡は言った。
「身勝手なお願いだと、重々承知でお願いします、あと十日、それだけでいい、なんとか正式発表を待っていただけませんか」
「お願いします!」
 雅之と二人、ただ、頭を下げていた。
 それでどうなるかなんて判らない。
 けれど、今、些額ではあるがようやく個人投資家からの出資も得て、わずかな希望が生まれたばかりなのだ。
「……内々の話だが」
 背を向けた御影の声は、他人事のように淡白だった。
「綺堂憂也君のキャスティングも、今、再度検討されているようだね。現地で聞いたニュアンスでは、ほぼ白紙に戻ったようだ」
「…………」
 現実。
 これが、現実というものなのか。
「正式発表は待つとして、君らストームの正式発表はいつなのかね」
 振り返った御影は、口元に淡い微笑を浮かべていた。
「忠告しておくが、とてつもない激震が来るよ、おそらく君らが想像している以上の、とてつもない激震だ。申しわけないが、君らは今日付けで当社から解雇する。以後、一切関わりがないと、そう思ってください」












 
 ※この物語は全てフィクションです。



                    >next>back 

感想、お待ちしています。♪内容によってはサイト内で掲載することもあります。
Powered by SHINOBI.JP