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『このたび、主演舞台で三島由紀夫賞を最年少受賞された貴沢秀俊君、ヒデですよ、ヒデ、今日はその、ヒデに緊急密着取材です!』
朝っぱらだというのに、ワイドショーの女の声は妙なほどハイテンションだった。
リモコン、ねーかな。
憂也は所在無く、組んだ足を解いては組みなおす。
『新春から公演された舞台、薔薇の掟は、連日の超満員、ヒデのスケジュールは、もう二年先まで分刻みで埋まっているとのことなんですねー、これからの日本芸能界を背負って立つスーパーアイドル貴沢秀俊、彼の1日を徹底的に追跡です』
リモコンねーと、消せねーじゃん。
わざわざ消すために立ち上がるのも面倒だし。
「あのー、綺堂さん」
声をかけてきたのは、先ほどコーヒーを運んできてくれた女だった。
「もう少し長引くそうなんですけど、よかったら、下でコーヒーでも飲んでくださいって」
「いいよ、面白そうな番組やってるから」
軽くウィンクすると、いかにも大手企業で受付をやっていそうな美貌の女は、わずかに頬を赤らめた。
テレビでは、寝起きの貴沢秀俊が、移動中の車の中でインタビューに応じている。
『最近は、ストームの片瀬りょう君の舞台も話題になってましたねー』
『ああ、あれ、僕観てないんですよ』
すっぴんで髪もぼさぼさなのに、それでも画面の貴沢秀俊は美しかった。多分、何をしても、生活のどの瞬間でも、彼はいつもアイドルなのだろう。
『同じ事務所でも、チケットって取れないものなんですか』
『優先枠だけはあるんで……あとは、一般の方と同じで、郵便振込みでお金払って買うんです。後で頼まれても、自分のコンサートのチケットさえ押さえられないこともありますよ』
『わー、すごい人気ですね』
『片瀬君の舞台は大人すぎて……ちょっと引いちゃいますね』
貴沢はそう言って、はにかんだように笑った。
多分、この瞬間、テレビに食いついている何千人もの女の子が「可愛いーーーっ」と、絶叫しているはずだ。
『渋谷でドラマ撮影の後、映画のロケで横浜まで移動するヒデには、こんな秘密兵器が!』
画面がきりかわり、そこにいきなり見慣れた建物が映し出された。あれっと思った瞬間、登場したのはJ&M社長の唐沢直人。
ぎょっとして、思わず引いてしまったのは、今度は憂也の方である。
あ、朝っぱらから観たい面じゃねぇし。
『わー、アイドル事務所の社長さんだけあって、ハンサムですねぇ』
レポーターのお世辞を聞き流し、社長室の唐沢直人は苦笑した。
『確かにヒデは、うちの事務所の中でも格別忙しいのでね、テレビ局さんのご協力も得て、特別な移送手段を用意してるんですよ』
「憂也」
おっとお。
憂也は顔を上げる。
重々しい扉が開いて、鬱蒼と出てきた男。
性格はまるで違うが、顔だけは名前と同じ、憂鬱と悲愴を絵に描いたような、玲瓏たる美貌の兄。
どんな猛夏でも黒ずくめのスーツに、死者の国から湧いて出たような青白い肌を持つ男は、やはり憂鬱そうに片手を上げた。
「……悪い、約束が山積みでな、この時間しか空いてなかった」
「いいよ、どうせ俺自由業だから」
憂也が肩をすくめると、綺堂愴二は、感情の読めない目でテレビを一瞥する。その刹那ぶちっと画面が消えたので、憂也はマジでびびっていた。
「ちょ、超能力かよ」
「俺の前ではテレビは絶対つけんなっつってあるんだ」
形よい顎をしゃくる愴二の向こうには、先ほどの女性の青ざめた姿があった。
一応、愴二専属の秘書だという。ここは、兄の所属する弁護士事務所が入っている、六本木の巨大オフィスビル。
「相変わらず、こえーよ、兄貴」
「……ふん」
愴二は片眉だけをわずかに上げた。
「同じ自由業でも、えらい違いだな」
それが何を指しているのかは、すぐに判った。
「……つか、普通にテレビ観てんじゃん、兄貴」
憂也はそうぼやいて立ち上がった。
12
並んで立つと、身長に二十センチ以上の開きがある。
子供の頃から際立って背が高かったこの兄に、憂也は一度も追いつけないまま、高校でぱたっと背が伸びるのが止まってしまった。
片や愴二は大学に入ってからも伸び続けたから、細胞からして、すでに常識を超えてるんじゃないかといつも思う。
「綺堂さん、帰国してらしたんですか」
成績優秀。
「向こうでの活躍、耳に入ってますよ、このたびは結婚、おめでとうございます」
スポーツ万能。
「可愛い弟さん……?あれ、もしかして、この子」
おまけに顔までいいときてる。こんな男、早急に法改正して死刑にするべきだろう。
すれ違う人々の好奇に満ちた目を全く無視して、愴二は先立ち、さっさと一階の喫茶店に入っていった。
いまや新観光名所になりつつある、モダンな外観を擁した二十二階建てのオフィスビル。
兄が所属する法律事務所は、このビルの十二階から十三階にかけて入っている。
日本でも最大手、いくたの名弁護士が所属するという事務所は、主に大企業や国会議員の専属顧問を勤めているという。その中にあって綺堂愴二は、若くして、すでに看板弁護士の一人に名を連ねていた。
東京大学在学中に司法試験に合格、学業の傍ら、なんだかんだと寄り道しつつ、結局は法務の世界に入った男は、今でも飽きっぽい性格を捨てきれず、昨年から単身ロスに渡り、そこでも弁護士事務所を兼業している。
「向こうはどう?」
「地球なんて、どこに行っても同じだな」
「………へー」
じゃ、火星でも開拓しろよ。
向かい合って席につく。憂也がメニューを取ろうとすると、愴二は、即座にコーヒーを二人分注文した。
あ、と思わず憂也は顔を上げる。
「なんだ」
「あー、いや、別に」
「俺のおごりだ、気にするな」
「……………」
さっきも上でコーヒーを飲んで、元々胃が丈夫じゃないから、ほしくないとも言い出しにくい。
「まぁ、電話で済ますのもなんだと思ってな」
時間を気にしているのか、愴二は腕時計を見ながら本題を切り出してきた。
「うちの社内でも、お前のことが噂になってんだ。サインをねだられるのが面倒で隠し通してきたんだが……」
「そ、そんな理由かよ」
つか、誰も兄貴に、そんな恐ろしい頼みごとなんてしやしないよ。
「で、いい機会だから、結婚式でだ、まぁ、俺の弟として紹介してやろうかと思う」
「………そいつはどーも」
地球は自分を軸に回転していると思い込んでいる兄貴らしい言い草だ。
「恥はかかせんな」
運ばれてきたコーヒーをごくごくと一気に飲み干し、愴二は上目づかいに憂也に視線を向けた。
「悪いな、存在自体が恥さらしでさ」
同じようにコーヒーを唇にあてた憂也は、あわててそれを口から離す。
あっちー、つ、つか、どんだけ鈍いんだよ、こいつの舌は。
「取引先の会社の連中も大勢呼んだ。中には芸能関係者もいたと思うが」
「まさか、うちの社長がまじってるっつーオチじゃねぇよな」
「それはない」
即座に否定し、愴二はもてあますほど長い足を組みなおした。
「お前、千秋は泣くと思うか」
「……いや、……どうかな」
唐突に話題が変わるのもいつものことだ。
憂也は飲む気の失せたコーヒーを隅に押しやる。
「俺が選抜の決勝で敗れた時も、長期で日本を離れると判った時もだ、あいつは、すずめの涙も零しやしなかった」
「その例え、ちょっと間違ってねー?」
「今回は、マジで泣かそうと思う」
「………………」
勝手にしろよ。つか、ガキじゃねぇんだから。
子供の頃、そういえば、あの手この手を使って気の強い幼馴染を泣かそうとしていた。そんな子供っぽい愴二の気質は、今でも変わっていないのだろう。ただし、それでも千秋が泣くことなど一回もなかったのだが。
憂也が黙っていると、愴二は神妙な顔で、両手指を組んだ。
「結婚式の精神的なクライマックスは、なんだと思う」
「……………いや」
「知らないのか?両親への花束贈呈だと相場が決まっているだろう」
「つか、行ったことねぇし」
というより聞くな、判ってんなら。
「そこで、お前の出番だ、憂也」
愴二は、真っ直ぐに憂也を見つめる。
どんなくだらない会話――それが、昨日観た天才バカボンのアニメの話でも、超深刻な顔をするのが愴二なのである。
「花束贈呈の直後にお前が歌うんだ、曲名はもう決めてある、一応アイドルの顔をたてて、ギャラクシーのスケール」
「………………」
「………まさかと思うが、知らないのか」
「あほか、そらで歌えるほど知ってるし」
昨年、日本で一番売れたシングル。昨年の大晦日、紅白のトリを飾った名曲。
ギャラクシーの名前と共に、永遠に日本歌謡界で歌い継がれていくだろう。
アイドル事務所、J&Mが初めて放ったロングヒットだ――ヒットしてはあっけなく消えるアイドルソングの常識を、ある意味ぶちやぶった一曲でもある。
「まさか、兄貴が、そんな下世話なもんを知ってるとは思ってもみなかったからさ」
「お前も社会人を経験してみろ、年末の忘年会など、二次会ではどこもかしこもスケールだ」
「……へー」
内心の感情を押し隠し、憂也は、伸びをして外の景色に目をやった。
ちょうど通勤時間なのか、前かがみのサラリーマンと思しき人々が、せかせかと急ぎ足で通り過ぎていく。
「器用すぎる人間は、時に下手な生き方しかできないものだ」
また唐突に話題が変わる。憂也が視線を戻すと、愴二もまた、窓の外を見ているようだった。
「男とは、生まれた以上、不器用でもひとつの仕事をやり遂げればいいと俺は思っている。俺は今の仕事が天職だと信じているし、後世に名を残す仕事ができると確信している」
「………………」
その言葉は、以前、株式コンサルタントをやっていた時も聞いたのだが……さすがにそれは口には出せなかった。
「言っては悪いが、お前が今していることは、ただの素材の叩き売りだ」
「親に感謝しないとな」
「若くてちやほやされている内はいい、しかし、それが過ぎた時どうなる、お前の人生、そこで終わるわけじゃないだろう」
憂也の軽口を、愴二はあっさりとスルーして続けた。
「お前は、自分の才能を放置したまま、日々、おもしろおかしく過ごしているだけだ。断言してやるがな、芸能界にいる限り、」
じっと、冷ややかな目が憂也を見つめる。
「お前はいつまでたっても三流のままだ」
「まだ若いし」
憂也は軽く言って、肩をすくめた。
「深刻になるのが苦手なんだ、人生の話は、また、兄貴の年になった時考えるよ」
対面の兄が、かすかに嘆息するのがわかる。
「………人の人生なんてな、一寸先は真っ白だぞ、憂也」
愴二はうつむき、そしてわずかに目をすがめた。
「俺はそれを、親父が死んだ時に実感した」
「……………」
さすがに憂也も、返す言葉をなくしていた。
憂也が小学校にあがる前、父親は交通事故で急死していた。当時、兄は小学校高学年くらいだったから、憂也にはほとんど記憶にない父も、兄には格別な思い入れがあるに違いない。
が、
「まさか、あんなに保険金が入ってくるとは思わなかった。俺が好き勝手できたのも、お前が自由に遊んでいるのも、全部親父が早死にしたおかげだな」
「………………………………」
あ、兄貴………。
思わず顎が落ちそうになる。
し、深刻に入って、そんなオチで出るなんてありかよ。
「おっと、時間だ、じゃあ、そういうことで、後はよろしく」
いや、――そういうヤツだって、それはもう誰よりもよく知ってたけど。
実家で、線香の一本でもあげて、親父に謝ってやらなきゃ、たたられそうだ。
「千秋と会ってんの?」
背後から声をかけると、形良い背中が止まった。
「どういう意味の質問だ、それは」
「いや……」
つか、そんなこえー目で振り返らなくても。
「あいつ、暇してるみたいで、しょっちゅう、うちに入り浸ってんだ、とっととロスにでもなんでも連れてってやれよ」
「心配しなくても、やることはやっている」
「………………」
んなことまで聞いてねぇし。
「ありがとうございましたー」
店員の声と共に、兄の背中が消えていく。
憂也は嘆息し、温くなったコーヒーを一口だけ口に含んだ。
13
「………」
扉を開けた途端、香ばしい食卓の匂いが漂ってくる。
焼き魚と、そして、炊飯の甘い香り。空腹の胃より先に、何故かふいに胸が痛んだ。
「憂ちゃん?」
憂也は、おう、とだけ答えて、リュックをソファの上に投げ出した。
綺麗に片付けられた室内。
部屋の中には、キッチンから聞こえた声の主以外、誰もいないようだった。
「来てたんだ、お前」
「暇だったからー」
キッチンから、ざーっと水流の音がして、タオルで手を拭いながら千秋が出てくる。
埃ひとつない床、洗濯物がはためくベランダ。
「……お前にかかると、この部屋もなんだか新婚家庭みたいになってきたよ」
皮肉まじりに呟くと、千秋はへへん、と、腰に手を当てた。
「性なのよね、汚い部屋みると、つい」
「ハウスキーパーにでもなったらいいんじゃねー?」
「もう、就職決まってます」
いたずらっぽく唇をつきだす女から目を逸らし、憂也は上着のボタンに指をかけた。
「さっきまで雅君がいたんだけど、急用ができたんだって」
「へぇ」
脱いだ上着を床に落とす前に、千秋はさっと拾い上げた。ついでに、リュックから零れたバイクのキーも拾い上げる。
「こういうとこ、兄弟そろって同じなのよね」
「…………」
「無精者なんだから、私がいなくても大丈夫か?君は」
憂也は黙って、そのままソファに背を預ける。
「お茶でも飲む?」
「いらね」
「お茶でいいよね」
勝手に言い切り、千秋は軽い足取りでキッチンへ戻っていった。
「…………」
つか、来るかよ。
男ばっかの部屋に一人で。
しかも今日は、兄貴が帰国してるのに。
「でもやっぱ、似てるよね、憂ちゃんと愴ちゃん」
カチカチとガスをひねる音と共に、そんな楽しそうな声が被った。
「片付けがダメなくせに、器用で何やらせてもすぐにできちゃうとこも同じ。楽器も勉強もスポーツも」
「…………」
「憂ちゃん、野球だって上手かったしね、リトルリーグのエースがなんでやめちゃったの、もったいない」
「事務所に入ったからじゃん」
そっけなく言い、憂也は買ったばかりの雑誌を紙袋から出して、ぱらぱらとめくる。
「アイドルかぁ」
キッチンから、笑いを含んだ声がした。
「意外だったけど、案外似合ってるから、その方に驚いた」
「…………」
「でもさ、最近の憂ちゃんは、ちょっと心配」
返事をしないままページをめくる。
ふいに近づいた気配が、上から雑誌を奪い取った。
「死んでるもの」
「おい」
雑誌の動きにつられたように顔を上げると、額をぱちん、と叩かれた。
「目、」
「………………」
少し頭上から、千秋が微妙な眼差しで見下ろしている。
笑っているのか、怒っているのか、曖昧に浮かんだ微笑。
先に目を逸らしたのは憂也だった。
「この、つぶらな瞳をつかまえてよく言うよ」
「アイドルってお仕事選べないの?」
「しんねー、マネージャーに聞いてみて」
「今の仕事がつまんないんだ、だから夜中に、こそこそ出かけたりしてるんだ」
「彼女に会いにいってんだよ」
憂也は、女の手から雑誌をもぎとった。千秋は膝をつき、下から憂也を見上げるような眼差しになる。
「いないくせにー」
「いるよ」
「強がっちゃって」
「強がってねーよ」
「いないくせに」
「だから、いるんだよ、ちゃんと」
「どこの人?名前は、年は?血液型と生年月日は?」
「だから」
「身長は?職業は?好きな作家は?俳優は?憂ちゃんの何が好きで、最初にキスしたの、どこでいつ?」
「…………ガキかよ、お前」
「ほーら、やっぱいないんだ」
憂也が黙ると、千秋は勝ち誇ったように腕組みをする。
「あたしの勝ち!」
「……………」
もし、ここにいるのが。
「……何?」
「別に」
「今、なんか超深刻な目してなかった?」
「してねーよ、全然」
将君だったら、今頃どういう展開かな。
ま、そんな想像、なんの意味もねーけどさ。
「………千秋」
それでも出された緑茶をみつめながら、憂也は呟いてしまっていた。
「なぁにー」
「…………」
一瞬、唇まででかかった言葉は、そのまま、吐息と共に流れていく。
「お前さ、ちょくちょく来てるみたいだけど、」
「暇なんだー、それに主婦魂くすぐられる部屋ではあるんだよね」
「………………」
少し黙ってから、憂也は雑誌を開いて仰向けになった。
「いや、一応ここ、雅の部屋だから」
「ご飯食べるでしょ?すぐ用意するね」
「アイドルの部屋に、女が出入りしてちゃまずいじゃん」
返事の代わりに鼻歌が聞こえた。
憂也は、暗く翳ったカーテンのブルーに視線を移す。
つか、どうして今夜に限って、誰も帰ってこないんだよ。
「憂ちゃん、結婚式で歌うたってくれるんだって?」
食事のトレーを持ってきた、千秋の声は明るかった。だから憂也も気持ちを切り替える。
「高いぜ、生アイドルの歌声は」
「んじゃ、応援うちわ、式場に持ってっちゃおうかなー、私」
ん?
と、眉をひそめると、千秋は声をたてて笑い出した。
「憂ちゃんのキッズ時代のコンサートだよ、その時買ったうちわ、私、まだもってるし」
ぎょっとした。
まさかと思うが、莫迦丸出しの顔で笑っている、写真入り応援うちわのことだろうか。
コンサート会場で販売される応援うちわは、J&Mアイドルのステイタスのひとつだが、当人の憂也ですら昔のものは持っていない。
「キロあたり五千円でどうだ」
「………何ゆってんの?」
というよりあれは、ファンがコンサートで持つゆえに許されるこっぱずかしさであって、間違っても他の用途に使うものではない。
「憂ちゃんの輝かしいうちわデビューだったもんね、あれ、嫁入り道具の箱の中に、ちゃんと大事につめてるから」
「いっそのこと、墓まで持っていけよ」
閉口のあまり、反射的に出た言葉だったが、何故か、今度は千秋が黙った。
「………憂ちゃんさ、」
「…………なに、」
「……………」
「……………」
時計の秒針を刻む音が、何故かふいに耳につく。
が、一瞬うつむいた千秋が顔を上げると、それはいつものいたずらめいた笑顔だった。
「いつから二重になったっけ」
「……………………」
す、すげー息つめて、莫迦みてー、俺。
「今、超深刻な顔してなかった、お前」
「しってなっいよーだ」
それでも憂也がそう言うと、千秋は笑うような声で答え、そのまますいっと立ち上がった。
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