72


「よっ」
 明るい声に、慌てて扉を開いた将が、むしろ固まって戸惑っている。
「元気だったか、なんだか随分久しぶりになっちゃったな」
 悠介。
 レザーコートに厚手のニット。ヴィトンの旅行鞄を肩からかけた浅葱悠介の背後に、冬の朝の日差しがきらめいている。
 その日差しを浴びた、いつも以上にさわやかな笑顔。
「……お前」
 言葉が出ない将の背後から、
「えっ、悠介君?」
「なになに、今まで何してたの?」
 雅之と聡の、能天気な声が響く。
 将は靴を履いて外に出た。悠介をおしやるように、玄関の扉を閉める。氷のように冴え切った朝の空気。階段を昇ってきたのか、悠介の頬はうっすらと赤かった。
「また、ここに戻ってきたんだ」
「ホテル代も馬鹿になんねぇしな」
 元真咲しずくが所有していたマンション。今はJ&Mの公式寮。会見の日から五人は、再びここで寝泊まりしている。
 12月10日、コンサートまで、あと3週間。
 数日続いたマスコミ攻勢も、ようやく収まった。周囲は久しぶりの静けさに包まれている。
「そんなことより、家には帰ったのか」
 声をひそめて将は訊いた。
 微笑する悠介は、視線を下げて、小さく頷く。
 留学するといって家を出ながら、悠介は将を追って、再び日本に舞い戻ってきた。
 当然、自宅に戻れるはずもない。アパートを点々と移り住み、家出同然の日々を送っていたのである。
「将には、本当に迷惑かけたよ」
「いいよ、そんなの」
 迷惑をかけたというなら、こっちだ。
 もっと早く説得して、家に帰らせるべきだったのに、どうしてもそれができなかった。悠介の気持ちが、本当に嬉しかったから。
 できることなら、他の仲間たちと同様に、ドームで一緒に新しい年を迎えたかったから―――。
 ふんぎりがついたのは「情熱王国」のオンエア終了後だ。ストームがマスコミから追いまわされるようになって、それを機に、唐沢に頼んで悠介を切ってもらった。残酷なようだが、それしか、この人のいい友人を、自分みたいな厄病神から離してやることはできない。
「……留学、もっかい、仕切り直しか」
 寂しさをこらえて、将は言った。
 悠介の姿は、これから旅立つ人のそれに見える。
 すでに内々で悠介と婚約を交わしている亜佐美から、「父親を騙して音楽三昧の留学生活を送るそうよ」と聞いていた。相変わらずだな、とおかしくなるが、期限付きではあっても、好きなことに打ちこめる悠介のこれからに、少しだけ安心する。
「俺のこと、怒ってるか」
 将の言葉に、少し驚いた目をした悠介は、きっぱりと首を横に振った。
「全然っていったら嘘になるけど……今は、怒ってないよ」
「言い訳かもしれないけど、それが、お前のためだと思ったんだ」
「うん、判ってる」
 白い歯を見せて、悠介は笑う。
 くっきりとした八重歯がのぞく、子供の頃と、少しも変わらない笑顔。
―――それでも……。
 と、将は思う。
 それでも、いきなり全ての連絡を断たれて、悠介は憤ったろうし、悲しかったろう。
 内心では、将のことを恨みもしたに違いない。
 けれど、亜佐美の口から、悠介の父親の怒りの深さを聞かされていた将には、それが、最善の策のように思えた。今度こそ父親は本気だった。悠介はあのままだと、確実に勘当されていたに違いない。
「留学したら、思いっきり音楽するよ」
 何かを振り切ったように言って、悠介は笑った。
「そっか」
「インディーズのスターになる。才能はないけど、金と暇だけは使いきれないほどあるからさ」
 将は苦笑する。
「ストームの海外公演もプロデュースしてやろうか。てか、もしかすると俺がメジャーデビューしてるかもしれないけど」
「どうかなぁ、お前のスタイルは海外受けしそうもねぇけどな」
「言ったな」
 ようやく2人で、顔を見合わせて笑っていた。
 朝の日差しが眩しい。2人して手すりに背を預け、どちらともなくすみ切った空を見上げた。
「……親父のこと、さ」
「うん」
「許してやってほしいんだ」
「…………」
「後から聞いてびっくりしたよ。トラックや電源車のキャンセル、あれは親父が」
「悠介」
 将は、親友の肩を叩く。
「許すも許さないもないよ。あれはさ、いってみれば俺が全部悪いんだ」
「…………」
「ストームは社会悪みたいに叩かれてたし、他の会社にも随分嫌がらせの電話があったそうなんだ。企業の経営者としたら、まっとうな選択だよ」
 ゲネプロ会場、配送トラック、電源車――コンサートの必需品の数々は、今、唐沢たちが懸命に探してくれているはずだ。なんとかなる。まだ状況は限りなく絶望的だけど、将はそう信じている。
「それに、最悪さ、」
 言いさして、将は笑った。
「どんな形だってコンサートはできるんだ。俺たち5人が揃ってたら」
 横顔を見せたままの悠介が、少し寂しそうに笑った。
「応援してるよ」
「うん」
「また、会おうぜ」
「……うん」
「じゃ、慌ただしいけど、下に車待たせてるから」
 未練のように、将は悠介の腕を掴んでいた。
 この手に、俺は。
 何度も何度も、助けてもらった。
 お前は知らないだろうけど。
 俺にとってお前は、本当に大切な友達なんだ、悠介――。

 

                73


「ゲネプロ会場がみつかった?マジですか、それ!」
 聡が声を張り上げている。
 全員が動きを止めた。
 ようやく再開したコンサートのリハーサル。本番まであと三週間、久々に揃った全員の目には、動きをとめてもなお、火花のような激しさが散っている。
 汗を拭い、息を整えがら、将、りょう、雅之、憂也は、携帯を持つ聡を注視する。
「唐沢さんから」
 電話を切ってから、聡は興奮気味に振り返った。
「まだ使用条件をつめてる段階だけど、予定どおり12月24日、クリスマスイブにゲネブロができそうだって!」
 エアポケットのような、一瞬の沈黙。
「うおーーーっっ」
「マジで??」
「やったーーっ、すげーっっ、すげーじゃん」
 奇声をあげて飛びあがり、雅之とりょうがハイタッチを交わしあう。
「やるじゃん、唐沢さん」
「まさか俺らが、いっつも踊ってた河川敷ってオチじゃねーよな」
 笑いながら、将と憂也も伸ばした手を叩きあった。
 背後のスタッフからも拍手が聞こえた。レインボウから音合わせのために来た若手PAと、悠介がインディーズから引き抜いてきたバンド「SPARKS」の面々。
 渋谷のスタジオ。
 今日は初めての、生演奏つきのリハ―サルだった。
 午後からは、深夜までぶっ続けのダンスレッスンが待っている。ここ数日、五人は一日十時間以上のハードなトレーニングを続けている。そのコーチでもある鬼軍曹矢吹一哉とサポート役の植村尚樹は、午後からここに合流する予定になっていた。
「俺にもまだ信じられないよ。聞いて驚くなよ、どこがこの話を持って来てくれたと思う?」
 聡が、まだ興奮さめやらぬ様で続けた。
「エフテレビだよ、エフテレさんが会場を提供してくれるみたいなんだ、これって信じてもいいのかな!」
「エフテレには、エフテレなりの皮算用ってのがあるのよ」
 ふいに背後からだみ声が響いた。
 五人は一斉に振り返る。
 灰色の、作業着みたいなつなぎを着て、「よう」手をあげている男。傍らに長身の美青年を引き連れている。
 元鏑谷プロ会長、鏑谷創と、同プロの広報室長カン・ヨンジュ。
「……会長」
 聡の顔が、わずかに陰った。
 鏑谷会長が、自らが創立した鏑谷プロから身を引いたのは、12月5日。
 J&Mと東邦EMGプロが、完全に袂を分かった日の翌日のことである。
「陣中見舞いだ」
 どさりと置かれた段ボール。歩み寄って開いた将は、それが「ミラクルマン」のキャラクターつき缶ジュースだと知って、苦笑していた。
 例え社を離れても、この人の会社への愛情は、微塵も変わることはないのだろう。
 自らの進退と引き換えに、ドーム公演のスポンサー契約を死守してくれた男に、今となっては、どう謝罪しても足りず、感謝の言葉さえも追いつかない。
 ただ、この公演を成功させることによって、少しでも恩返しがしたいと思うばかりだ。
「エフテレさんの皮算用って……どういう意味ですか」
 聡の質問に、頷いたのはカンだった。
 元韓国人留学生。もともとは医学生だったが、日本の特撮に惚れこみ、今に至ったと聞いている。
「エフテレは、漁夫の利を狙っているとでもいうのかな。当然なんらかの見返りをJ&Mサイドに要求しているはずですし、それは僕が思うに、コンサートの放映権だと思います」
 放映権。
 五人は顔を見合わせた。どの顔もまさか、と言っている。
「……しかし、僕らはまだ」
 聡が、全員を代表して言いよどむ。
 将とりょうの釈明会見。そして憂也と水嶋が行った、世間をさわがしたことへのお詫び会見。それ以来、世論はストーム追放派、擁護派で真っ二つに割れている。
 いずれにせよ、いまだストームは、完全にテレビ復帰したとは言い難い存在なのだ。
 しかも――真田孔明の、脅しにも似た予言もある。
 今後ストームは、二度とテレビでは使われることはないと。
「どう転んでも、という意味ですよ」
 カンが苦笑して言いさし、ベンチ椅子に腰かけた鏑谷が、その後を継いだ。
「ジャパンテレビがテレビ界の天皇なら、新参のエフテレは、いってみりゃ総理大臣みたいなもんだ。格式じゃ負けるが、実力では完全に上をいっている。しかもエフテレには、過去、ライブライフの企業買収を未然に防いだという誇りもある。内心じゃ、東邦にのっとられたジャパンテレピの言い分に、服従する気はさらさらないってとこだろう」
 エフテレは世論の動向を見極めようとしてんだろう。
 ジュースを一口飲んで、鏑谷は続けた。
「お前たちが勝てば、そのまま放映権をいただくってことだし、真田さんが勝てば、右に習えで沈黙を守る。どちらにしても、エフテレには一切損のない話だ。うめぇ話じゃねぇか。たかだか工事中の新社屋を、一日ぽっきり貸してくれるってだけで」
「えーーっ、じゃあ、ゲネプロ会場って、お台場の、あれですか」
 そこまでは聞いていなかったのか、聡がすっとんきょうな大声をあげた。
 エフテレビが四百億を投じて建設中の新社屋。来年の春には竣工予定で、今から大きな話題を振りまいている東京の新観光スポットである。
「んじゃ、俺らのコンサート、下手すれば、エフテレで独占放送ってことになんのかな」
 首の後ろに手を回して、憂也が呟いた。
「へ、下手ってなんだよ」
「だってさ、どうせ放映されるなら、世界にむけてどーんと発信したいじゃん」
 現実が判らないのか判っているのか、憂也の言い草に、全員が吹き出した。
 が、その憂也、何を思い出したか、ふいに慌てて時計を見上げる。
「おい、ぼやぼやしてる場合かよ。もうすぐ軍曹さんが来る時間じゃねーか」
「やべー」
 わたわたと振り付けの確認にいそしむ聡と雅之。
 りょうはPAと最後の打ち合わせに入り、憂也は一人で踊り始める。
「鏑谷さん」
 将は、腰をあげかけた鏑谷の傍に歩み寄った。
 ぎろり、と目を動かした異相の男の前で、深々と頭を下げる。
「……ご迷惑を、おかけしました」
 しばらく無言だった男が、ふっと息を吐くのが判った。
「読んだよ、あんちゃんの手紙」
「………………」
「あれがあんちゃんたちの出した結末なら、俺はとっととケツまくって、おたくの会社から手ェ引いてたよ。悪いけど、おらぁ好かねえな。他人のために自分が犠牲になるっつー考え方は」
「いえ……僕一人の一存で書いた手紙です」
「ま、そうだろうさ」
 再度、将は一礼する。
「将君、ケータイなってるよ」
 背後からりょうの声。
「柏葉君」
 背を向けた将に、カンが追いすがってきた。
「それまで会長は、何があっても会社から身を引く気はないと、一歩も譲らない構えだったんです」
「………はい」
 なんの話だろう。そう思いながら、将は足を止める。
「一本気な人ですからね、一度こうと決めたら絶対に変えようとしない、当然他の役員も反発する。……今回は会長の気質が、悪い方向に進もうとしていたのですが」
「…………」
 将は眉をひそめて、聡に向かって何やら野次めいた声を飛ばしている鏑谷を見る。
 ストームへの支援をめぐり、鏑谷プロ内部で、相当激しい対立があったとは聞いてはいた。その話をしているのだろう。
 声をひそめてカンは続けた。
「あのままでは、うちの会社は間違いなく分裂していたと思います。……会長自ら身を引くことを決断されるとは、……正直、誰も想像さえしていませんでした」
 それは、でも。
 迷うように顔をあげる将に、カンは微笑を返してくれた。
「君の手紙とやらのせいだっのたかな……本当のところは誰にも判りませんがね」
 軽く将の肩を叩き、長身の男は静かにきびすを返していった。
 将はもう一度、二人に向かって深く頭を下げる。
 最初から、鏑谷会長にだけは、全てを打ち明けなければならないと思っていた。
 あの手紙は、将が何度も書いては破り、書いては捨てて、そして最終的に、ようやく滞在していたホテルで書きあげたものである。
 それには、将がいずれストームから身を引くこと、そうしなければならない理由、そして、ゆえに鏑谷プロには、これからも安心してサポートを続けてもらいたい、そんなことが書かれていた。
 鏑谷会長自らが辞任を決意したのは、手紙に綴った将の決意がもう用をなさなくなってからだ。唐沢からも、鏑谷プロへは正式に報告がいっていただろう。予定どおり、このままのメンバーでコンサートをやります、と。
 それでも、鏑谷はストームを守ってくれた。自身の引退と引き換えに、コンサートへの協力だけは今までどおり継続すると、それを新役員に約束させたのである。
 胸苦しくなり、将は視線を下げていた。
 最後まで、一方的な迷惑のかけどおしだった。
 鏑谷会長だけではない。前原率いるレインボウ、ライブライフの織原瑞穂、まだ幼稚園の子供を抱える片野坂イタジ、再就職先を蹴ってまで戻って来てくれた逢坂真吾。
 彼らが否応なしに背負わされた葛藤と、これから遭遇するであろう困難を思うと、やりきれなくなる。それと共に、こうまでして、年末のドームに立とうとしている自分とは、一体何者なのかと思う。
 机の上に荷物と一緒に置いていた携帯は、さすがにもう切れていた。
 将は、青い点滅ライトが灯るそれを取り上げて、押し開いた。
―――亜佐美……?
 着信だ。通話とは珍しい。互いの立場を慮って、いつもメールでやりとりしていたのに。
 悠介のことかな、何故かそんな予感がした。



            74


『なんだ、びっくりした、どうしたんだよ、急に』
 電話の声は明るかった。
 将は、携帯電話を握りしめた。
―――悠介……。
「今、どこ?」
 感情を抑えて、将は言った。
 悠介の背後からは賑やかな喧噪が聞こえてくる。
『空港、ちょっと早く着いたんで、暇潰しにゲームやってた。でもそろそろ時間かな』
(―――将、悠介はね、留学なんかに行くんじゃないの)
「じゃ、あんまり長話はできないな」
 悠介と同じ、つとめて明るい声で将は言った。
「いや、今朝は慌ただしくて、なんだか十分に挨拶もできなかったからさ」
『相変わらず律儀だなぁ、将は』
 電話の向こうの声が、呆れている。
―――悠介……。
(ロスのコンサルタント会社で、研修がてら企業経営の勉強をするの。もう、音楽は二度とやらないと思う)
「餞別もできなかった」
『いらないよ。むしろ俺が、将に寄付してやりたいほどだ』
「一生売れない音楽やってくお前が、何言ってんだよ」
『だから、向こうでメジャーデビューするんだって』
―――悠介……。
(お父様に、土下座して頼みこんだの。あんな真剣な悠介初めて見たし、今でも涙が止まらない……将は、すごい奴だからって)
『本当にストーム、海外進出するくらいビックになれよ。日本に埋もれたアイドルなんかで満足してんなよ』
(本当に才能がある奴だからって、こんな所で消えるような奴じゃないからって、そう言って、何度も何度も頭を下げたの。なんのためだと思う?あたしがいけないの、将がゲネプロの場所に困ってるって聞いて、あそこならできるんじゃないって、何の気なしに悠介に言ったから)
 エフテレビが建設中の新社屋。
 どうしてすぐに気づかなかったのだろう。その建設を請け負っているのは――浅葱建設。
「わかってるよ」
 将は言った。それ以上、言葉が何も出てこない。
―――悠介……
 目を閉じて、その上から手で押さえる。
(その引き換えが、音楽をやめて、すぐにでも後継者として仕事をすること。まさか悠介がそこまでするなんて、私、想像してもいなかった……)
 馬鹿野郎。
 馬鹿悠介。
 そんな真似までされて、俺は一体どうすりゃいいんだ。
『ぐずぐずしてると、俺の方が先に行くからな』
 屈託のない明るさに、将は奥歯で感情を押し殺す。
「どこにだよ」
 んー……と、電話の向こうから返される、しばしの沈黙。
『マジソン・スクエア・ガーデン』
「ぶっ」
『すげーたろ』
「ありえねーっつーの」
『そんなの、やってみなきゃわかんねーよ』
 じゃあ、そろそろ時間だから。
 最後まで、悠介の声は楽しそうだった。
『また落ち着いたら連絡するよ。それからドームはさ、残念だけど、学校の関係もあって行けそうもないんだ』
「いいよ、後でDVDでも送るから」
『頑張れよ、俺も頑張る。亜佐美のこと、よろしくな』
―――悠介……
『じゃ』
 プツリと切れてしまった通話。
「頼むから……」
 片手で目を押さえながら、将は呟いた。
 携帯の向こうからは沈黙しか返ってこない。
(お前とはこれきりだ、絶交だ、もう二度と連絡しないし、してこないでくれ)
(顔もよくて頭もよくて、才能もあって、なんでもできるお前にな、俺の気持ちがわかんのかよ、なんにもわかってねぇんだよ!)

 こらえきれずに、あふれた涙を、将は掌で強く押さえた。
 馬鹿は、あいつらだけだと思ってたのに、もう一人、とんでもない大馬鹿野郎がいやがった。

(いーや、俺は一生根に持つね、お前にとって俺ってそもそもなんなんだ、親友ってそもそもなんなんだ)
(亜佐美も好きにしろって言ってくれてるしさ、……もう一年、いや、三年は音楽やってたいんだ、俺)

 頼むから、――悠介。
「将君?」
 廊下に出たきり戻らない将をいぶかってか、りょうの声が背中で聞こえる。けれど足音は、そこで止まる。
 将は、動けないままだった。
―――悠介、
 頼むからこれ以上、俺のこと泣かせないでくれ……。








 

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