26



「美波涼二だと?」
 吐く息から、すえたアルコールの匂いがした。
 香水と異臭がこもった室内。垣間見えたのは、乱れたベッドの上に投げ出されたピンク色のストッキング。
「あの……」
 玄関に立ちすくんだまま、凪は息を飲み込んでいた。
 私、以前電話させてもらった流川凪といいます、美波涼二さんとは――
 そこまで自己紹介した時だった、玄関に出てきた部屋の主の顔つきが変わった。
「美波と言ったな、今」
 勢いよく押しあけられた鉄製の扉が、壁にぶちあたって暴力的な音をたてる。
 獣じみた男の目が、凪を真正面から睨みつけた。
「おい、お前!お前あのクソ野郎の回し者か!」
 ベルを鳴らすと不機嫌そうにでてきた男は、最初、どこか虚ろな目をしていた。
 それが今、一転して脂ぎって光り、乱杭歯をむき出しにした、殺意さえ感じられる凶相に変化している。
 立ちすくんだまま、声が出ない凪に変わり、背後の碧人が前に出てきた。
「保坂、明男さんですね」
「それがどうした」
 噛みつくような激しさで男。
 碧人は冷静に一礼した。
「はじめまして。僕らは先週、電話でお会いすることを約束した流川と海堂という者です。娘さんが入院していらっしゃる病院の、僕は院長の息子で、海堂碧人といいます」
「……ああ?」
 訝しげな間があって、ああ、と、男は再度呟いて頷いた。
 潮が引くようにすうっと、歪んだ憎悪がその表情から消えていく。
 生活に堕落した六十過ぎの男の実年齢が、その弛んだ肌と覇気をなくした眼差しにゆっくりとにじみ出てきた。
「ああ、そういや、電話があったな……約束してたの、今夜だったか」
 口を開くたびに、アルコールの臭気が凪を襲う。よろめくようにきびすを返すと、男はよたよたと奥の部屋に向けて歩き始めた。
 顔をみあわせ、少しためらってから、凪と碧人もその後に続いた。
 ベッドと食台、リビングとも寝室ともつかない乱雑な部屋。
 床には衣服やら雑誌やら食べ物の滓やらが散らばっていて、そこを素足で歩くには、多少の勇気が必要だった。油と、甘く腐乱した残飯の匂い。
 男は、スプリングを軋ませて、安っぽいベッドに尻を落とした。
「で、娘がどうしたって?」
 どうでもいいような口調だった。
 丸い風船のような腹、むっちりと肥えた手足。だらしなく膨れた肉圧で、ワイシャツのボタンがはちきれそうになっている。白髪まじりの頭髪には、ヘアトニックが塗りたくってあって、顔だちは肥えたブルドッグのようだった。
 保坂愛季の――父親。
「目でも覚ましたか?それとも冗談のひとつでも言えるようになったか?」
 だみ声で男は笑う。前歯を飾る銀歯が、男をげっ歯類のように見せている。
 薄い眉、黄色く濁ったやぶ睨みの眼。
「愛季のことは、ぜんぶ病院にまかせてんだ、言っとくが、娘の話できたのなら、俺は何も知らねぇな」
 その言い方が、娘に対する父親のものだとは、凪には到底思えなかった。
 この人が……ずっと探していた、保坂愛季の父親。
 都内のマンション。
 ここはおそらく、男のものではないだろう。随処に散乱している夜の女の匂い。2人して自堕落な生活をしていることが、はっきりと伺える暮らしぶりだ。
「なんだよ、他に話があんなら、とっとと済ませて帰ってくんねぇか」
 男は酒臭いげっぷをしてから、衣服の山の下から煙草のケースを取り出した。
 碧人にうながされ、凪は頷いて前に出る。
 今回ばかりは、碧人の助力なくしてこの男との面談をとりつけるのは不可能だった。巧みに病院の名前を出し、渋る男を説き伏せ、ようやくここまでこぎつけたのである。
 凪は改めて自己紹介し、自身がかつて、男の娘を知ることになった経緯を説明した。
 男は、聞いているのかいないのか、煙草を美味そうに吸い続けている。
「すごい偶然で驚いたんですけど、実は、……私は」
 私は、美波さんとは――。
 続けようとして、凪はためらって口をつぐんだ。
 最初の表情の変化で判った。娘を自殺にまで追いやった美波涼二とは、男にとっては永遠に憎んでも足りない悪魔のような存在なのだ。例えあれから何十年たとうと。
 その父親の心を乱す権利は、凪にはない。――ないのだが。
「……美波、涼二さんのことなんですけど」
 葛藤を押し殺しながら、凪は続けた。
 ずっと無関心に覆われていた男の横顔が、初めて肉を震わすように動いた。
「不愉快なお話をするようで申し訳ありません。私、美波さんとは昔からの知りあいなんです。私にとっては……すごく恩義のある、大切な友人です」
 また、男の中に潜んでいるものが爆発するかと思ったが、一瞬その気配はみせたものの、それでも男は、感情を抑え込んだ風に頷いた。
「で?」
「ご存じかもしれませんが、美波さんは、あれからずっとお嬢さんの所へ通っておられます」
 冷たい笑みが、無言の男の横顔に満ちる。
「で?」
「こんなことを、あなたに頼める筋合いじゃないのは判ってるんですけど」
 息をつく。
「美波さんは……病気なんです」
 凪は、絞り出すような声で言った。
「現実をひとつも見ずに、心の中で作り出した世界から動くことができなくなっているんです。私の勝手な思い込みかもしれません。でも、愛季さんの無念を晴らすこと、美波さんの思考は、そこから一歩も動けないまま、止まってしまっているような気がするんです」
「それがどうした!」
 怒りまかせの男の声と、凪の顔に衣服のようなものがぶつかってきたのが同時だった。
 凪は身をすくませた。
 話の切り口を間違えたのだと即座に判った。けれど、凪にしても、これが精一杯だった。むしろ、言葉を取り繕うことこそ、男に対して失礼なような気がする。
「愛季は、じゃあどうなる」
 吐き捨てるような声。
「思考どころか、何もかも止まっちまった。あの男はなんだ、生きて、飯食って、芸能界でちやほやされて、ええ?一体それの何が不満なんだ」
 凪は頷く。
「愛季の時間はあれっきりとまったままだ、もう二度と動くことはない」
 その通りだ。それがきっと、残酷な現実。
「美波の野郎がどうなろうと、俺がいちいち知ったことか!」
 灰皿が飛んで、盛り上がった煙草の灰が舞い上がる。
 何ひとつ……反論できない。
 残酷な、辛いことをしていると凪は思った。自分のしていることがわからなくなった、いや、最初から判らなかった。自分は何をしているのだろう、一体何故、どうしてここにいるのだろう。
 それでも突き動かす何かにいざなわれ、現実に今、ここにいる。
「娘さんを、あんな目にあわされたあなたに……こんな話をするのは、本当に失礼な、心ないことだと、それは判ってるんですけど」
「お前は何もわかってない、だからそんなことが言えるんだ」
 そうかもしれない。何故か凪は、梁瀬恭子のことを思い出していた。人生の、本当の意味での地獄も辛酸も知らない呑気で無神経な女子大生――それが、私だ。
「J&Mが、解散したのはご存じですか」
 それでも、凪は続けていた。
 苦しくても、そんな私だから、言葉にできることもあるかもしれない。見えることもあるのかもしれない。
 今はもう、それを信じるしかない。
 すでに答える気も怒る気も失せたのか、男は、遊ぶように煙草の煙を吐き出した。
「こういう言い方をしていいなら、J&M事務所は謀略で潰されたんです。そして、それを仕組んだのが美波さんだったんだと思います。彼は自分の一番大切な場所を、自分の手で葬ったんです。……愛季さんの、復讐のために」
 独り言のように男は呟く。
「だから、それが何なんだよ」
 人生に膿んだ声。
「俺が美波に、J&Mを潰せと、そう頼んだとでも言いたいのか。あいつとの話はついてんだ。金が入ってくんなら、J&Mがどうなろうと美波が何をしようと、俺のしったこっちゃない」
「……美波さんの」
 凪は気力を振り絞って続けた。
「美波さんの心は、愛季さんを失った日のまま止まってます。彼はずっと、あの日の世界で生きてるんです。もう何年もずっとずっと、ずっとです。一人きりで、ずっと愛した人を失った日のまま、あの日の悲しさと後悔を背負って生きているんです」
 正確には。
 凪の分析では、美波の時計はふたつある。
 ひとつは生の時計で、美波にとってはかりそめのもの。でも、そのかりそめが、いつしか美波にとって人生そのものになっていた――美波自身が、7月31日に壊してしまった時計。
 もうひとつは死の時計、それは、保坂愛季が事故にあった日に止まっている。美波にとって、彼の真実の時を示している時計。
 それが、凪がずっと不可解に思っていた、美波の不思議な二面性の正体だ。 
「J&Mがなくなってからの彼は、はっきりいえば生きてなんかいないんです、死んでるみたいなものなんです」
 無意識の涙が零れていた。凪はそれを指で払った。
「私が言うことでも、口を出せることでもないと判ってます。それでも言わせてください。美波さんを、……許してあげることはできないでしょうか」
「許す?何をだ?」 
 男は鼻で、小馬鹿にしたように笑う。
「死んでるだと?笑わせるな、喋れてメシ食って、歩いてるだけマシだろうが」
「ご理解いただけないと思います。でも、私、友人として、どうしても彼を放っておいてはいけないと思ったんです」
「だったら勝手に世話でもなんでもやけばいい、俺には関係ない」
 凪は黙り、そして、少し迷ってから続けた。
「どうして愛季さんが、あんなことになったのか、……あれは、どういう事故だったのか。私、当時のこと、色々調べてみたんです」
 男の目が冷めたまますがまる。反応はそれだけだった。
「とても……素敵な方だと思いました。昔の知り合いの方々は、みなさん同じことをおっしゃいました。明るい人、お人よしなくらい優しくて、友だち思いの人、前向きで、楽天家で……何があっても決して愚痴や恨みごとを言わない人」
 凪は、写真で見た愛季の笑顔を思いうかべながら続けた。可愛いのに、それはどこかコケティッシュで、彼女がどんな言葉で行動で、冷ややかだった美波の心を溶かしていったのか、容易に想像がつくような気がした。
「マスコミに……ひどい目にあわされても、ずっと、美波さんのことばかり心配してたって、そんな話も聞きました。絶対に自殺なんてするような人じゃないって」
 男が、無言で笑う気配がした。
「で?」
「……娘さんが、自殺じゃなくて、事故だったっていう、可能性は」
「ないね」
 即答。
 最初と同じ獣じみた目が、凪を真正面から冷ややかに睨みあげた。
「なぁ、お前何が言いたいんだ。俺が娘の事故を利用して、あのクソ野郎どもにたかってるとでも言いたいのか」
「そういうことじゃ」
「教えてやろうか、何もわかってねぇのはてめぇの方だよ」
 ふいに兇暴に跳ね上がった足が、折りたたみテーブルを蹴り上げた。発砲スチロールの皿やビールの缶などが床に散らばる。ビールの臭い匂いがした。
 息をついて、男は一気にそれを吐いた。
「娘はな、はめられたんだ。それをやったのがあいつがいた会社の連中だ」
 はめられた。
 なんの話だろう。
 凪は表情をこわばらせる。
「女房がおかしくなったのは、その話を聞いたからだ。あいつらは娘をだまして、薄汚いビデオを撮らせて、それで美波の首に縄をかけてたんだよ。それをよりによって結婚会見の日に出しやがった」
 娘を騙して。
 薄汚いビデオ撮らせて――。
 凪は、理解し、そして愕然とした。そんな、まさか。そこまで――残酷なことが、どうして。
「あいつのせいで、あいつのせいで、何もかも、あいつのせいで!」
 ベッドを拳で軋むほど叩く。歯ぎしりする男の口元から、呪詛の悲鳴があふれ出た気がした。
「それは、誰から聞いたんで」
「誰だっていいだろう、そんなことは!」
 碧人の声も遮られる。
「娘は何もかも失った。女優としての未来も、人間としての尊厳も、何もかもだ」
 自身の苛立ちを押さえるように男は続けた。
「だから愛季は死んだ、自殺しようとした。なのにあの男は生きている。俺があの男から奪うことの何が悪い、奪っても奪っても足りないくらいだ、え?一体何が悪いってんだ、オイ!」
 その剣幕と血を吐くような迫力に、凪はもう、何も言うことができない自分を感じた。
 いや、最初から、何かをすることなどできなかったのかもしれない。
「帰れ」
 激情から反転した疲れた声で、男は言った。
「帰れよ」
 それきり無関心の煙が、室内に満ちていく。
 ここが、終着駅なのだろうか。
 ずっと探していたものの、これが。
 凪の中に、やるせない悲しみと虚しさがこみ上げる。全て無駄だったのかもしれない、ここまでたどり着くために捨ててきたもの、全てが。
 過去は――動かせない。
「帰ろう、流川」
 背後で、そっと碧人が囁く。
 鼻毛を引き抜く仕草をしてから、男は傍らのリモコンを持ち上げた。
 点灯したテレビから、プロ野球中継が流れだす。来客の帰宅をうながすように、男は煩いほどにボリュームをあげた。
 ジャアイントと阪神戦、舞台は東京ドーム。
―――東京ドーム。
 碧人に頷こうとした凪は、ふと視線を止めてしまっていた。
 あと二か月、あと二か月で――この舞台にストームが立つ。
 聞いた時はまさかと思ったし、あり得ないと思っていたのに、本当にそんな奇跡を起こしてしまった。いや、起こそうとしている五人と、そして新生J&Mのスタッフ。
 言葉が、自然に口からあふれ出ていた。
「私は、絶対に自殺じゃないと思ってます」
 半腰になった男が、気色ばむ気配がした。それでも凪はひるまずに続けた。
「それを誰かが決めるしかないなら、どうして自殺だと決められるんですか。それは、絶対に本人にしか判らないことなのに」
 危険を察したのか、碧人が凪の前に立ちふさがろうとする。凪はそれを手で制した。
「あなたは、愛季さんが芸能界でどうやって生きてきたのか、それを本当にご存じなんですか、理解しようとしてきたんですか」
「てめぇ、ふざけるなよ」
「美波さんのこと、どんなに大切に思ってたか、それ、本当に判ってるんですか」
 たまらず碧人が割って入る。男の拳が凪の顔の前で震えていた。
「好きな人を苦しめるために死んだりするような人だと思ってるんですか。絶対に違う、それ、絶対に違います!」
「流川!」
 碧人の怒声がした。
 言いすぎだ、その目がそう言っている。
 凪は拳を握り、唇を震わせた。強烈な自己嫌悪と興奮で、頬が白くなるのを感じた。
「失礼しました……こいつ、悪気はないんです。ただ美波さんって人のことも、あなたの娘さんのことも、どっちにも思い入れがありすぎるから」
「こう言えば満足か」
 碧人を押しのけると、怒りと笑いがまじった声で、男はがなるように言いたてた。
「俺は娘のことなんて何も知らない。芸能界に入るのも反対だったし、何をしてたかも見たことさえない。そんな娘を自殺したことにして、いいカネヅルを手に入れた、ああ?どうだ」
 凪は頭を下げた。人として、決して言ってはならないことを言ったのかもしれない。
 決してしてはならないことを、してしまったのかもしれない。
「どうだ、それで満足か、ああ?それで満足なのかよ!」
 頭上に男の声が響いてくる、凪は、何も答えられないままだった。



                 27


「よ、待った?」
 軽く肩を叩かれる。
 将は振り返り、しばらくまじまじと自分を呼びだした女の顔を見つめた。
「今、来たとこ……でもないけど」
 目の前には二杯目のコーヒー。時間にすると、一時間以上はここにいる。が、早く部屋を出たのは、決して気がせいていただけでなかった。
「行こうか。夕食には少し遅い時間だけど、上で予約してるから」
 上。
「……いっけど」
 将は、再度しずくを見る。
 ここは、都内でも有名な高級ホテル。J&M時代は、ここで記者会見なんかをやったこともあった。が、プライベートで訪れたのは初めてだ。
 本気かな?
「今夜あいてる?よかったら一緒に食事でもしない?」
 夕方、いきなり携帯に入った電話。将にしてみれば初めての、で、あり得ない夜のお誘い。
 横眼で確認したしずくは、全身黒のフォーマルめいたワンピースにラメが入ったボレロ。髪は控えめにまとめ、普段より随分清楚気な女に見えた。
 デートというには……少し、違うような気がした。
「……2人?」
 エレベーターホールで将は訊いた。
「ううん、もう先方はお待ちだと思うんだけど」
 あっさりと時計を見てしずく。
 やっぱりな。
 そもそも期待してなかったから、がっくりともこない。この耐性がいじらしいとさえ思ってしまう。
 降りてきたエレベーターが開く。しずくが推したのは二十三階、最上階のレストランフロアだ。
「誰、」
「んー、ビジネスのお相手」
「どうして俺が同席すんだよ」
「仕方ないじゃない、向こうさんのリクエストなんだから」
「仕事なら最初から言えよ」
「君に一時だけでもいい夢みてほしくってー」
「ばか、見ねぇよ今更」
「あらー、この間は情熱的に、ぎゅーって手を握ってくれたのに」
「…………」
 将が真顔で見つめると、しずくの目から、からかいの色が消えた。
 少し笑って肩をすくめ、視線をその手首に落とす。
「あと少しでオンエア終了、今頃事務所は苦情電話の嵐ね」
 観てないから、内容は知らない。
 何がどこまで明かされるかだけは聞いてはいるが、それがどのように脚色されて伝えられたかは、この女には悪いが、さすがに見る気にはなれなかった。
 信じている。
 信じては――いるが。
 長年ひた隠しにしてきた柏葉家最大のタブーが、こんな形で破られてしまった。
 確かに話題にはなるだろう。今までJ&Mを無視していたマスコミもくいついてくるかもしれないし、レコード会社と提携でもできれば、ニンセンドーから権利を買い戻した「奇蹟」が、再リリースされる可能生も高くなる。
 東邦の、ジャパンテレビ買収完了までに、ストーム……というよりJ&Mは、どうしてもテレビへのルートを掴んでおかなければならないのだ。判っている、これは、そのための布石であり、戦略にすぎない。
 が、本当にそこまですべきだったのか、それが本当にストームの、引いてはJ&Mの未来のためになるのか、将にはいまひとつ判らないままでいる。
 わずかな疑念が、将が見つめるしずくの背中に見え隠れする。もしかしてこの女が見つめているのは、今も昔も、徹頭徹尾城之内静馬のことだけではないのだろうか……。
「真田のおっさん、怒ってるだろうな」
 エレベーターを降りたとき、将はふと呟いていた。
「あら、じゃあ本人に聞いてみれば?」
「…………」
 聞く?
 振り返った将を見て、しずくはにっこりと微笑んだ。悪魔のような天使の微笑。
「これから一緒に食事するから、聞いてみたらって言ってるの」
 黒いスカートが翻る。
 将は唖然として、その先を追って視線を馳せ、そして足を強張らせていた。





                

 

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