4



 朝もやの中、ジーンズに手を突っ込んで歩いてきた人が、あれ、といぶかしげな顔になる。
 雨上がりの朝、少し空気は冷えていた。
 成瀬家の門扉。
「なにやってんの、お前ら」
 意味もなくラジオ体操のふりをしていた三人は、少し慌てて居住まいを正す。いや、慌てているのは、多分雅之と聡だけで、憂也は一人、どこか面白そうな顔をしていた。
 歩み寄ってくる将から顔をそむけるようにして、雅之は聡に囁いた。
「ど、どうリアクションしていいんだか」
「い、いいんじゃねー?とりあえず、帰ってきたわけだから」
 雅之の額を冷や汗が伝う。
 午前六時三十分、将君まさかの朝帰り。
 ふられついでの自棄なのか、それともアイドルにあるまじき、まさかのまさかの不倫落ちなのか……。
「よう、どうよ、初朝帰りの感想は」
 が、いきなり憂也の、空気を読む気さえない先制攻撃。ぎょっとして、その場の全員が凍りつく。
 けれど将は、特に怒るでもなく、ただ「わりーな、つい寝ちまった」とだけ言って少し寝癖の残る髪に手をあてた。
 服は、昨日別れた時のまま、少し表情に切れがないのは、確かに単に、寝不足のようにも見える。
「それ、彼女の?」
 憂也の視線の先、将の手にきらめく車のキーに、雅之も初めて気がついた。
「うん、借りた、部屋も自由に使っていいってさ」
「じ、自由にってどういうこと?」
 さすがに慌てた態で聡。
「しらねー、朝起きたらいなかったから、手紙だけ。あいつ、しばらくあの部屋には戻んねーんだってさ」
 不思議なほど、将の目が落ち着いている。
「あ、朝まで一緒だったんだ」
 それには答えず、将は少し眠そうにあくびをした。
「メシ、どうする?」
「あ、それならお袋が用意してくれてるみたいで」
「そっか、じゃ悪いけど、世話になるかな」
 世話になるかなって……そんな、なんでもない風に、重要事項をスルーされても。
 微妙に焦る雅之の隣で、憂也がつられたようにあくびをした。
「で、引き受けてくれた?真咲さん」
 その憂也の声に、将の背中が止まる。
「俺たちのマネージャー、そもそもその話にいったんだろ、将君」
「…………」
 しばらく黙っていた将は、かすかに嘆息して全員の顔を見回した。
「メシくったら、話あっから」
 朝の冷たい風が、将のシャツをわずかに揺らした。
 ひやり、と雅之の胸の中にも、同時のその風が吹き抜けた気がした。
「マネージャーの件は、それからにしよう、その前に決めなきゃいけないこと……まだ、色々、残ってるだろ」



                 5



 台所から、暖かな味噌汁の匂いがする。
 雅は、……両親そろってたはずだけど、親父さん、何してんのかな。
 そう思いながら、将は食卓を立って台所に入った。
「手伝いましょうか」
「あら、いいのよ、座ってて」
 可愛らしい人だな。ふと将は、その横顔に目を止めている。
 雅之に印象がよく似ている。天然で、どこか別の方向を見ているようで、それでいて底の方には揺るがない自分を持っている。
 不器用でも、地に根を張って生きる術を知っている。そんな感じだ。
「将君、朝はご飯でよかったかしら」
 ふいに、その横顔が口を開いた。
 言って、将が返事をする前に、ぱっと赤らんで振り返られる。
「いやだ、ごめんなさい、雅君がいつも、将君将君って言ってるから、つい」
「いえ」
 将は少し笑って、それからふいに、胸が痛くなるのを感じていた。
「……すいません」
 聡と雅之と憂也は、2階の聡の部屋で、着替えやら支度やらをしている。
 何ひとつスケジュールのない将と違って、三人には、それぞれの日々があり、仕事がある。
「……俺、もしかしすると」
「え?」
 鍋の火をとめた雅之の母親が、不思議そうに将を見上げる。
「とんでもないことを、やろうとしているのかもしれません」
「……………」
 この穏やかで優しい時間を。
 また、凄まじい狂騒の嵐に巻き込んでしまうのかもしれない。
「顔洗ってきたら?」
 が、優しい声に、将は戸惑ってうつむいていた顔をあげた。
「あの子たちもそうだけど、ずっと起きてたみたいよ、夕べ」
 鏡の前に立った将は、自身の目が赤く充血していることに、はじめて気がついた。
 明け方、四時前に目を覚ましたら、もう女の姿はどこにもなかった。
 綺麗に片付けられた部屋。残されていたのはテーブルの上の手紙だけ。
 

 君が聞きたいことも、ここに何をしにきたかも、全部判ってるつもり。
 もう逃げる気も隠す気もないから、あと少しだけ待っててくれるかな。
 車と部屋は自由に使って。そのつもりで開けといたから遠慮なく。

 
ストームが全員揃ったら、私から連絡するわ。

 真咲しずく



 聞きたいことか。
 聞きたいことは山のようにあった。
 奇蹟の映像は、いつ撮ったの?
 奇蹟って、親父が、そもそもいつごろ作った曲なの?
 で、そん時、何考えてたの?
 あんたの本当の目的って何?
 御影さんとの結婚って、そもそもどういう意味があったの……?
 将は無言で、冷たい水で顔を洗う。
 もう、焦らなくてもいいんだろう、そこは。あいつに逃げる気がない以上、絶対にいつか教えてもらえることだから。
 問題は、……最後の一行。
 ストーム全員が揃うかどうか。


 
                 6



「ま、簡単に話せば、そういうことだ」
 全員がしんとしている。
 時刻は八時少し前、飛行機の時間が迫っている憂也のために、タクシーが下で待機している。
 雅之の部屋。
 まだ高校の教科書が一部残っている学習机に座っている聡と、ベッドに片足を抱いて座る憂也。その端に腰掛け、腕組みをしたままうなだれている雅之。
 床に座り、その全員の顔を見回してから、将は続けた。
「最初に言っとくけど、俺が動けば、必ず真田のおっさんも動くと思う。色んな手で潰しにくると思うし、そん時、俺らを助けてくれるバックは、いまんとこ、何もない」
「…………」
 眉を寄せた聡の唇から、かすかな苦渋の息が漏れる。
「しかも、雅も聡も、ストーム再結成口にした時点で、間違いなく、今の事務所はクビだ」
 雅之が、唇を噛むのが判った。
 憂也が嘆息し、そして伸びた黒髪を背後に払う。
「その上で、俺の結論聞いてくれ」
 将は言い差し、そして軽く息を吐いた。
「ストーム、もう一回やる」
 時計が秒針を刻む音。
 戸外で、複数の女の子たちの笑い声と、自転車が通り過ぎる音がした。
「旗揚公演は、2005年12月31日」
 全員の眼差しが、今は将に注がれている。
「東京ドームで、だ」
「………………」
「………………」
「………………」
 時が止まったような沈黙があった。
「俺、今回は無理強いしないし、押し付けもしない」
 将は静かな声で続けた。
「今のはあくまで俺一人の結論だし、考えだ、わかってると思うけど遠慮なんかせずに、みんなの本音を聞かせてほしい」
 最初に顔をあげたのは聡だった。
「将君……それは……ドームのことは、俺も昨日、まさかと思いつつ考えてみたんだけど」
 そこで軽く唇を噛む。
「現実的にはどうだろう、ストームもう一回するっていうのはいいと思うし、俺も考えは同じだよ。でも、もうちょっと安全にいきたいっていうか、時期も……もう少し後でいいんじゃないかな」
 そして、迷うような目で将を見上げる。
「旗揚公演も、もっと……静かにっていうか、今の俺らの分相応なところでやってもいいんじゃないかと思う」
「いや、それは俺も考えたけど」
 口を挟んだのは、顔を上げた雅之だった。
 普段の何百倍も頭使ってます、とでもいう風な、苦渋に満ちた目をしている。
「聡君が、叩かれるの不安でそれ言ってるなら、旗揚げなんて何年も先にしなきゃなんねぇし、今の将君の話聞いたら、何年たっても、真田って人が生きてる限り、復活なんてできねーってことになると思う」
「みんな、判ってると思うけどさ」
 憂也が、背を壁に預けながら、どこか暗い声で言った。
「敵は真田の爺さんだけじゃない、ストームは色んな力に負けて潰されたんだ。もちろん俺らの脇が甘かったってのもあるけど、その力は、また俺らを潰しにかかってくると思う。それが今年でも、来年でも再来年でも、ドームでもちっぽけな公民館でも」
 が、顔をあげた憂也の目は、明らかに笑っていた。
「リスクなんか、いつやっても同じなんだ、だったら迷う方がばかばかしい」
「憂也は、……じゃあ、将君の意見に賛成なんだ」
 聡。
 その口調が全員の思いを代弁している。ある意味、一番失うものが大きい憂也に、もう一度、芸能人生を賭けてまでストームに戻る意味が、果たしてあるのだろうか。
 憂也は、はっと笑って、ベッドの端まで身を乗り出してきた。
「賛成も何も、面白すぎてわくわくしてる、つか、常識を超えてるよ、考えることがでかすぎる。言っとくけど今回ばかりは想像もしてなかったし、ぶったまげた、マジスゲーよ、真咲さん」
 その声にも表情にも、一片の曇りもない。
「俺、マジであの人に惚れそう、つか惚れたね、こんなでかい祭りに、こえーからって参加できなかったら、絶対一生後悔する」
「……へー」
「ゆ、憂也、何余計な火種を……」
 と、微妙に焦る雅之が、おそるおそる将を見ながら言う。
「ま、真咲さんは、何も考えてないっつーか、単にでかいことが好きなだけなんじゃ」
「例えばさ」
 座り直す憂也の目は、怖いくらい据わっていた。
「百の力で潰されようとしてるのに、5とか10の力で押し返してどうするよ、向こうが百でくるなら、こっちはそれ以上の力で押し返すしかねぇんじゃねぇの」
「…………」
「…………」
 沈黙の後、聡が小さく呟いた。
「……だから、ドーム、か」
「そ、起死回生には最高のステージだよ、つか、俺、リベンジしたくて頭ぶちきれそうなんだ。今でも悔しくてたまんねぇし、目にものみせてやりてぇんだよ。あの日、コンサートをぶっつぶしてくれた連中にさ」
 憂也の目が、最高に怖い悪魔の目になっている。
 将は、わずかに笑い、そしてその笑みを消して雅之を見上げた。
「雅は、どう思う」
 腕組みをする雅之は、わずかに唇を噛んで、そしてまっすぐに将を見た。
「俺……逃げたくない」
 逃げたくない。
 全員の視線が、雅之に集中する。
「一年待つとか、二年待つとか、ちっちぇーとこでやるとか、それってみんな、逃げだと思う」
 普段言葉に迷う雅之らしからぬ、腹が据わった口調だった。
「ドームででかいことするっつったら、多分、俺らを潰したい奴らも、そん時一気に、全力で潰しにかかってくると思う。怖いけど……確かにどっかでぶるってっけど、そこで、一気にケリつけんのもありだと思う、試合みたいに」
「……試合か」
 将。
「崖っぷちサッカー部の時に思ったんだ。あんなに濃密に、色んな人生が複雑にからみあってたものが、たった90分の試合で、解けた」
 視線を下げ、雅之は自身の手を握り締めた。
「過ぎてしまえば、あの試合は二度と出来ないし、あの日は二度と戻らない。コンサートも、そんなもんじゃねぇかと思う。試合には負けたけど、俺たちは何かを手に入れた。そんな、ぎりぎりの崖っぷちで、俺は、もう一回戦いたい」
 そして雅之は、強い光をたたえた目で、全員を見回した。
「人生賭けた試合のステージが、大晦日のドームなら最高だ、そこで燃え尽きて、死んだって構わない」
 無言で笑う憂也の目が、気のせいかもしれないが、わずかに潤んだような気がした。
 それは、感情を顔には出さない将も同じだった。
「聡……」
 将は、一人眉を寄せている聡に視線を向けた。
「ある意味、お前が一番クレバーで冷静なんだ、思ってること、ちゃんと口にして言ってくれないか」
「……俺は……」
 聡が、少し暗い顔を上げる。
「慎重にいきたいと思う、でもそれは、怖いとか、俺がどうとかじゃなくて、みんなのことが心配だからだ」
 その聡の表情を、今度は全員が息を詰めて見守る。
「将君や、憂也や雅が……俺、本当に大好きだから、もう、あんな苦しんでるみんなの顔を、俺、二度と見たくないんだ」
 芯の強い光が、いつも優しく見える瞳に凝っていた。
「みんながその気なら、異存なんか最初からないよ。あったら将君、呼び止めたりなんかしない」
 自然に拳をつき合わせていた。
 思いが、一つになった瞬間。
「馬鹿だな、お前ら」
「しょせん、類友なんだよ、将君」
「全員馬鹿だと、救いなんてどこにもねーじゃねぇか」
 全員で不敵な笑顔を交し合う。
「わかってるだろうな、みんな、これが本当の正念場だ」
 将は言った。
「敵は全力で潰しにくる、世間は俺らを叩くだけ叩く、失敗すれば、本当に何ひとつ残らない」
「わかってる」
「覚悟はできてるよ」
「地獄行き片道キップってとこだろ」
 ここから、始まる。
 あまりにも巨大な敵との戦いが。
「行き先を天国に変えてやる」
 将は呟いた。
 12月31日まで、あと4ヶ月。
 大げさでもなんでもない、全員の人生を賭けた、最後の戦い。
「ALL or Natting、全て得るか、失うかだ」



              7


「さて、やることはうんざりするほど沢山あんな」
 荷物をひょいと持ち上げると、憂也はむしろ楽しげに言った。
 タクシーは、もう三十分も待たせている。何度か聡の母親が不安そうにのぞきにきたから、相当催促されているんだろう。
「裏方は、ひとまず俺に任せてくんねーか」
 同じく、荷物を肩にかけながら、将。
「一人じゃ無理だろ」
 即座に聡が、眉をあげて口を挟んだ。
「スポンサー集めに、資金、機材、チケットの段取りや広報……あと四ヶ月もないんだ、今までやってきたライプとは規模が違う。まずは、スタッフを集めなきゃ」
「……いや、そういうのも含めて」
 将は言い差し、少し影になった顔を上げた。
「お前らは、自分らの身辺、ひとまず固めるのが先だと思う、色々あるだろ、現実は」
 それには、聡も、雅之も、口を噤む。
「事務所クビになったら、移籍先も考えなきゃいけない、そういうマネジメントは、俺の方で動いてみる。お前らは、自分が今抱えてる仕事、なるべく迷惑かけずに続ける方法考えてくれないか」
 それが、いかに至難で不可能なことか、聡や雅之だけでなく、言っている将自身も理解している。
 そして、憂也。
 すでに来年のハリウッドデビューが内定している憂也、その所属事務所の社長であり、元憂也のマネージャーだった水嶋大地が、果たして憂也を手放すかどうか。
「つかその前に、島根に行ってくるから、俺」
 少し重くなった沈黙を遮るように、上着を肩にかけた将が言った。
 島根。
 その意味は、全員が判っていて、だからこそ、今まで誰も口にしなかったのかもしれない。
「……俺も行こうか」
 聡が、将の横顔を見ながら言う。将は静かに首を振った。
「いや、俺一人で行ってくる」
 りょうに関しては。
 多分、全員が迷っていて、そして同じことを考えている。
「あいつは頑固だから、俺がいこうと誰がいこうと、考えを変える気はないと思う。……ひとまず、こっちに連れて帰る。どういう結論がでるにしろ、一度五人で顔あわせといた方がいいと思うから」
「んじゃ、頼むわ」
 あっさり言ったのは憂也だった。
「絶対連れて帰ってこいよ、ストームは五人なんだ、一人かけても様になんねぇ」
「わかってるよ」
 それでも。
 一人先に、階段を降りながら、それでも将は考えていた。
 それでもみんな、心のどこかで覚悟している。
 五人ではなく、四人で再出発するかもしれないストームのことを。



               8



「憂也は、大丈夫なのか」
 何度かめのクラクションが階下で鳴る。
 雅之でさえ、時間大丈夫なのか、と思ったが、憂也は相変わらず平然としていた。
「大丈夫だって、今夜ハワイで撮影があって、明日にはまた戻れるから……あー、日本時間だといつになんのかな、ま、明後日にはまた会えるよ」
「いや、つかそんなことじゃなくて」
 雅之は、扉に手をかけている憂也を見上げる。
 聡は将を見送りに出て、部屋には雅之と憂也だけが残されていた。
 憂也はクールに笑って、ベッドに座る雅之を振り返った。
「仕事のことなら、俺はフリーだから大丈夫、つか、仕事は基本自分で選ばせてもらってっから、そういう意味では、契約云々の不安はないよ」
「スポンサーはどうなんだよ」
 それには、憂也の笑顔が翳った。
「……ま、それは確かにあるけどね」
「確かにっつーか、でかいだろ」
「何社かは降りるかもな、水嶋さんも、もちろん猛反対だろうけど」
「…………」
 アルマーニ水嶋。
 元J&Mの切れ者マネージャーで、憂也の独立を影で画策し、そして今は、その憂也を看板にした事務所の社長になっている。
 多分、私財どころか、人生そのものを、綺堂憂也という才能に賭けている男。
「……なんつーのかな」
 憂也は憂鬱なため息を吐き、扉を背にして天井を見上げた。
「本命につれなくされて、寂しさまぎれに浮気した相手と、うっかり肉体カンケー結んじゃって、で、本気でこいつのこと大切にしようかな……って思いかけた時に、本命が戻ってきて、三角関係清算に行く優柔不断なサイテー男の気分だよ、俺」
「………………」
 す、すげー例えじゃないか、それ??
「男同士の惚れた腫れたは、女よりやっかいだからね。下手すりゃ俺、水嶋さんに殺されるかもしんねー」
「お、おいおい」
 憂也も笑っていたし、雅之もつられて笑ったが、それが、とんでもない例えじゃなく、下手をすれば現実になりえることも、理解できた。
 将君の父親と、真田会長がそうだったように。
「……ついていこうか、俺」
「ついてきてどうすんだよ、俺の本命はお前だって、水嶋さんに言ってくれんのか」
「ば、ばか」
「一人で大丈夫だよ」
 まだ、どこか。
 完全に打ち解けたようで、見えない、ぎこちない薄い壁一枚が、2人の間にあるような気がした。
 それが何なのか判らないまま、雅之は所在無く視線を下げる。どこかで憂也に遠慮している部分があって、それを憂也が敏感に察して――それで、できている壁なのかもしれないけれど。
 ごめんって。
 謝ることでもないような気がするし、謝れば、もっと憂也が離れていくような気もする。
 なかなかに辛い。
 本気で傷つけてしまった相手と、どうやったらもう一度、元の仲に戻れるんだろう。
「雅もさ、人のこと心配している場合じゃないだろ」
 憂也の声は優しかった。
「行ってくるよ」
「おう」
 片手をあげた雅之に軽く笑いかけ、憂也が背を向けて扉を開ける。
「帰ってこいよ」
 その背中に、雅之は言った。
 ごめんな、憂也。
 俺、不器用だから、自分の気持ち、上手くお前に伝えられねーよ。
 でも、今、誰よりも憂也を必要としてることだけは、間違いないから。
 少し間があって、憂也の背が片手をあげた。
「おう!」





















 
 ※この物語は全てフィクションです。



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